古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

オトタチバナヒメ

ヤマトタケルの自伝 19

 

 

その時、オトタチバナヒメがわたしに向かって言った。

 

ヤマトタケルさま!わたくしが生贄となって海に入ります。そうすれば海の神の怒りもおさまることでありましょう。

ヤマトタケルさまは、どうかその使命を果たして朝廷に復命してください」

 

「な・・なんだと!いかん!やめるんだ!」

わたしは叫び、オトタチバナヒメにかけ寄ろうとした。しかし荒波に翻弄される船の上だ。その時、大きく舟が揺れて、わたしはよろめいて倒れてしまった。

 

そうこうしている間にオトタチバナヒメは、すげ・皮・絹の敷物を幾重にも重ねて海に浮かべたかと思うと、その上に降りて行ってしまった。

 

≪入水するオトタチバナヒメ

 

「オトタチバナ―!!」

わたしは叫ぶ!しかしもう、どうにもできない!

 

その時、オトタチバナヒメの声が聞こえてきた・・・沈む間際に歌を詠んだようだ・・

 

 駿河の野辺に 燃ゆる火の

 中に立ちたる 我が君が

 想って呼んだ 我の名は

 今も心に 残る声

 

わたしは涙が止まらなかった

「オトタチバナ・・・」

 

・・・そして、オトタチバナヒメが生贄となって飛び込んだ海は、その後何事もなかったように嵐はおさまっていき、静かで凪いだ海となっていったのだった・・・

 

こうして船は上総の国に着いた・・・

 

わたしはしばらく、上総国にとどまっていた。オトタチバナヒメが忘れられず、彼女が沈んだ海から離れられなかったのだ・・・

 

そして上総に上陸して7日目。わたしは海岸の波打ち際に落ちていたものに目が留まった。

 

「ん・・・これは・・・」

 

それは櫛だった・・・間違いない、オトタチバナヒメがその美しい髪に差していた櫛だ!

わたしはその櫛を取ると、オトタチバナヒメの御陵を造り、櫛をそこに納めた。

 

オトタチバナヒメの御陵を造ることによって少し気持ちの整理ができたわたしは、再び従者たちを率いて旅を続けていったのだった。

 

 

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ヤマトタケルの自伝 目次

 

 

橘樹神社

 

千葉県茂原市橘樹神社ヤマトタケルオトタチバナヒメの櫛を納めたところと伝わります。背後の古墳がオトタチバナヒメの御陵とされています。

 

橘樹神社 wikipedia

 

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