ヤマトタケルの自伝 28
わたしは尾張のミヤズヒメのもとに数か月の間滞在していた。
しかし、いつまでもここにいるわけにはいかない。わたしは大和に復命しなければならない。先に大和に帰したオオタチバナヒメも待っている。
「ミヤズヒメ、必ず迎えに来る。それまで待っていてくれよ」
わたしはミヤズヒメの手をしっかり握って言った。
「ヤマトタケルさま、いつまでもお待ちしております」
「そうだ、ミヤズヒメ、これを預かっていてくれ」
わたしはそういって、ミヤズヒメに草薙剣を渡した。それを見たミヤズヒメは、びっくりして言った。
「ヤマトタケルさま!これは・・・草薙剣ではありませんか!!・・・
どうしてこんな大事なものを、わたくしにお預けになるのですか!今まで幾たびもヤマトタケルさまをお守りしてきた、大切な剣でありませんか!!」
「いいんだ、もう東国は平定した。だからこの剣は、そなたに持っておいてほしいのだ」
「いや、しかし、ヤマトタケルさま・・・」
「そなたを迎えに来たとき、その剣も一緒にもって帰ろう。それまで、その剣は預かっていてくれ」
こうしてわたしは草薙剣をミヤズヒメに預けて、大和へ向けて歩き出したのである。
そしてわたしは伊吹山のふもとまで来ていた。ここを越えれば近江国だ。
ここでもわたしは、歓迎を受けた。わたしはここの長老の屋敷に招かれ、盛大な宴が開かれていた。
その席で、長老はわたしに向かって言った。
「ヤマトタケルさま・・・実は伊吹山には荒ぶる神が憑いておりまして・・好き勝手なことをしてはこの土地の住民を苦しめているのです・・・」
これを聞いたわたしは、また胸の高まりを感じた。よーし、ならばその荒ぶる神とやらは、わたしが退治してやろう・・・
「よし、長老!安心しろ!わたしに任せるがよい!」
わたしは力強く言った。しかし、その直後・・・
なんともいえぬ、得体のしれない不安を感じたのだ・・・そう、・・・
・・・わたしは、これまでわたしを護ってくれた草薙剣を、ミヤズヒメのところに置いてきてしまっていたのだった・・・
≪伊吹山≫
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☆寝覚の里
ミヤズヒメの屋敷跡と言われる氷上姉子神社の近くにあり、ヤマトタケルとミヤズヒメが新婚のひと時を過ごした屋敷跡と伝わります。
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