古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

悲劇、再び

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ところで、ホムチワケの母親、サホヒメ。天皇に反乱を起こした兄のサホビコに殉じて死んだが、天王は最後までサホビメを取り戻そうとしていた。サホビメは死ぬ間際、次の皇后にミチノウシの娘を指名していた。

 

天皇はサホビコを攻め落としたあと、サホビメの遺言通り、ミチノウシの4人の娘を召し出した。長女ヒバスヒメ、侍女オトヒメ、三女ウタコリヒメ、四女マドノヒメである。

 

しかし天皇はヒバスヒメとオトヒメだけを残し、あとの二人は「醜い」と言って親元に返してしまったのである。

 

しかし、ウタコリヒメもマドノヒメも、決して容姿が見にくいわけではなかった・・

 

天皇はどうしてもサホビメが忘れられない・・天皇は姉二人にどことなくサホビメの雰囲気を感じ取った。姿形が似ているわけではない、なんとなく、感覚的に・・である。

 

一方、妹二人には、サホビメの雰囲気は感じられなかった。二人とも確かに美しい、しかし天皇には感覚的に、直感的に受け入れられなかった。

しかし、この男の身勝手がまた悲劇を生むこととなった・・・

 

振り返ってみれば、皇室の先祖・ニニギもイワナガヒメコノハナサクヤヒメを山の神から献上された時、イワナガヒメを「醜い」と言って送り返してしまった。このために皇室は天つ神の子孫でありながら限られた寿命となってしまったのだ。

 

しかし垂仁天皇の世の中は、神の世から、既に人の世に移り変わろうとしていた。

 

天皇の身勝手が後世に影響を及ぼすようなことは無かった。しかし天皇に拒絶された当人にとっては、人の世のしがらみからくる悲劇が待っていたのである。

 

二人の妹は

「同じ姉妹だというのに、醜いと言われて帰されたなんて・・ああ、これではどんなうわさが立てられるか・・どんな顔をしておめおめと家に帰れというのだろうか・・」

と、嘆き悲しんだ。

 

 ことにマドノヒメは、山城の国まで戻ってきたとき、木の枝に下がって死のうとしたのである。この時はかろうじて付き添っていた侍女に助けられた。この地を懸木(さがりき)というようになった。今は相樂と言う。

 

しかしそののち、険しい淵にその身を落とし、ついになくなってしまった。その地は堕国(おちくに)というようになった。今は弟国という。

 

 この話を聞いたとき、さすがの天皇も自らの行為を恥じ、悲しんだ。天皇は喪が明けるまで、マドノヒメの魂を鎮めるべく、神床で祈りながら過ごしたという。

 

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☆相楽・弟国

 

相楽は今の京都府相楽郡(そうらくぐん)、弟国は京都府乙訓郡(おとくにぐん)の地名の由来だとされています。

 


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