オモイカネの自伝 22
アマテラス大御神がオオクニヌシのもとに派遣したホヒもワカヒコもその使命を果たさず、オオクニヌシに寝返ってしまいました。キジのナキメはワカヒコに射殺されました。そのワカヒコはわたくしの言霊がこもった矢によって誅殺されました。
アマテラス大御神はとても焦っていました。無理もありません。アマテラス大御神のもとに日本の支配を取り戻す企ては、ことごとく失敗してるのですから。
アマテラス大御神は、再度、天安河原に神々をお集めになり、仰せになりました。
「ホヒもワカヒコも、その使命を果たせませんでした。キジのナキメも殺されました。しかし、このままオオクニヌシに日本の支配を任せておくわけにはいきません。日本の支配権は、何としても私のもとに取り戻さねばなりません。
それにはどうすればよいでしょうか」
「ここまでコケにされては、もう武力で侵攻するしかありませんぞ!」
神々の中では主戦論が大勢を占めておりました。
しかし、戦争となると、日本の民にも大きな被害を及ぼすでしょう。そうなると、その後の統治に困難をきたすのは明らかです。日本の民にとって、われわれ高天原の神は侵略者となってしまうのですから。
そこで、わたくしは申し上げました。
「みなさん、お待ちください。攻撃はいつでもできます。でもその前に、今一度使者を送ってみませんか。
最後通牒を突きつけ、戦争も辞さない強い態度で交渉に臨むのです」
そこに、その場にいた神の一人が申されました。
「でも、オモイカネさま、その交渉に誰を送るのですか」
わたくしは
「オハバリをお忘れではないですか!!」
と答えました。
そう、オハバリ・・・はるかな昔、イザナギの大神が火の神カグツチを斬ったことがありました。その時斬った大刀が、今は神となり、高天原の天の安川の上流に鎮座しているのです。勇猛果敢な豪傑の神として知られています。
「そうですね、オモイカネの言う通り、今一度オハバリを使者にたてて日本に送ってみましょう」
アマテラス大御神が仰せになりました。
主戦論に傾いていた神々も、アマテラス大御神がそう仰せであれば・・・と、使者を送ることに賛成いたしました。
早速、オハバリとの連絡のために、わたくしは天安川の上流に赴きました。
オハバリは天安川の源流近く、険しい沢を登ったところに鎮座されていました。
やっとのことであえたオハバリに、アマテラス大御神からの言上を伝えると
「かしこまりました。アマテラス大御神の意のままにお仕えいたします。しかしこのお役目には、わたしの息子のタケミカヅチが適任かと思われます」
と答えました。
タケミカヅチは、父のオハバリに勝るとも劣らぬ豪傑だとその名が響いています。そこでわたくしは、タケミカヅチを連れて戻りました。
アマテラス大御神は、りりしい若者であるタケミカヅチの姿を見て、大喜びのご様子でした。
彼ならきっとその使命を果たしてくれる・・・そうお感じになったことでありましょう。
そして、タケミカヅチをアマテラス大御神の特使として、日本のオオクニヌシのもとに派遣することが決ったのでございます。
☆オハバリとタケミカヅチ
日本創世のころ、イザナミの神は火の神カグツチを産んだために大やけどを負って亡くなりました。イザナギは剣を手に取ると、妻を殺した火の神を斬り殺しました。
この時、カグツチの血が岩にほとばしり、その血からも神々が産まれました。岩に付着したカグツチの血から生まれた神の一人が「建御雷之男神」(たけみかづちのおのかみ)、本編に出てくるタケミカヅチです。
古事記ではこの話の最後に「この斬った刀の名は天之尾羽張(あめのおはばり)といい、またの名を伊都之尾羽張(いつのおはばり)という」と結ばれています。
時代は下って国譲りのときには、なぜかこの刀が天つ神となって高天原に鎮座されています。そして息子のタケミカヅチが国譲りの交渉役としてオオクニヌシのもとに派遣されることになります。
タケミカヅチは茨城県鹿嶋市の鹿島神宮・奈良市の春日大社、その他全国の鹿島神社・春日神社で祀られています。
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