オモイカネの自伝 21
日本に降りて帰ってこないワカヒコの事情を探らせるため、キジのナキメを降ろすことになりました。
ナキメはケーン、ケーンと甲高く泣きながら、日本に向かって飛んでいきました。
それから数日。
アマテラス大御神とわたくしは、神殿を出て天安河原を歩いておりました。
「ナキメはあの後、どうしたでしょう・・また帰ってこない、なんてことにならねば良いのですが・・」
アマテラス大御神は不安そうに仰せになります。
「ナキメはアマテラスさまにとても忠実な鳥の神ですから、よもやそんなことはあるまいと思われますが・・」
と、わたくしがお答えした、その時でした・・・
びゅう~~ん!
足元から矢が飛び出してきました!
この下は地上の日本です・・・日本から飛んできたのでしょうか。
そしてこの矢、見覚えがあります・・・アマテラス大御神がワカヒコに持たせた矢です!!
わたくしはその矢を拾い上げました・・・血がついています!
わたくしはその矢をアマテラス大御神にお見せいたしました。
「アマテラスさま・・・これはワカヒコが日本に降りるときに持って行った矢でございます」
「血がついていますね・・・これはどういうことでしょう。ワカヒコは日本の悪い神と戦っているのでしょうか。その矢がここに飛んできたのでは・・・」
「そうかもしれません。しかし、別の可能性もごさいます」
「別の可能性、というと・・・」
アマテ大御神は不安そうな様子で仰せになります。これまで特使として派遣した神がひとりも戻ってきていないのですから、それも無理ありません。
わたくしはアマテラス大御神に
「まだ何も分かりませんが、とにかく確かめてみましょう」
とお答えし、矢を飛んできた穴から地上の日本に投げ返すことにしました。
「もしワカヒコがアマテラス大御神の命令に背かず、日本の悪い神と戦っている矢がここまで届いたのなら、この矢がワカヒコに当たることは無いだろう。
そうではなくワカヒコに邪心があったのであれば、この矢はワカヒコに当たれ!!」
そういうと、わたくしは矢を日本に向かって投げ返しました。
わたくしの言霊がこもったその矢は、日本目指して一直線に飛んでいきました。
その結果はすぐにわかりました。若い女の泣く声が地上の日本から風に乗って聞こえてきたのです。
その声がワカヒコの妻となったシタテルヒメの泣き声だと判明するのにそう時間はかかりませんでした。
シタテルヒメはオオクニヌシの娘です。ワカヒコはシタテルヒメの娘婿になって日本の支配を画策しようと図っていたのです。
高天原に届いた矢は、このことを問いただしたナキメを、ワカヒコが射殺してしまった矢でありました。
ワカヒコはわたくしが投げた矢が胸を貫き、死んでしまったのでありました。
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☆ワカヒコ
ワカヒコはアマツクニタマの子というだけで、詳しい系譜は記載されていません。名前そのものが「天若日子」(あめのわかひこ)→高天原の若い男、といった意味で、これといった特徴のない名前です。
祀る神社も少ないのですが、滋賀県犬山郡豊郷町の天雅彦神社(あめのわかひこじんじゃ)では主祭神となっています。
☆その後
古事記の記述では、ワカヒコの葬式が執り行われるのですが、シタテルヒメの兄アジスキタカヒコネが葬儀の場で暴れてしまったそうです。
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