ワカヒコは亡くなった。シタテルヒメはいつまでも泣いていた。その泣き声は高天原まで届いていた。ワカヒコの死は、高天原の知ることとなった。
そしてワカヒコの父神と母神も、我が子の死を知った。彼らは失意のうちに日本に降りてきた。
そしてワカヒコの葬儀を行うこととなった。
荘厳な音楽が流れ神官がのりとを唱える中、葬儀はしめやかに行われていた。
その時、事件は起こった!
シタテルヒメの兄で、ワカヒコとも深く親交があったアジスキタカヒコネが弔問に訪れたのである。
すると、ワカヒコの父母はアジスキタカヒコネを見た途端
「ああ、ワカヒコ!お前、生きてたんだね!死んではいなかったんだね!」
と、アジスキタカヒコネにすがりついたのである。
アジスキタカヒコネとワカヒコは、最初わたしが間違えたように、とてもよく似ている。
よく見れば違っているとわかるのだが、ワカヒコの両親は冷静さを失っていたのだろう、アジスキタカヒコネをとらえて離さなかったのである。
ここにアジスキタカヒコネは怒った。もともとアジスキタカヒコネはちょっとしたことで頭に血が上る性格であった。
「俺はな、ワカヒコが親しい友人だから弔いに来だけなんだ!それを何で、俺を穢れた死者と一緒にする!」
言うなり、ワカヒコの両親を乱暴に振り払った。
それだけではなく、刺していた剣を抜くと、葬儀のために建てられた喪屋をズタズタに斬りさき、残骸を思いっきり蹴飛ばしてしまった。そして去って行ってしまった。
後には呆然とするワカヒコの両親が残されていた・・・
わたしはシタテルヒメに声をかけ、ある行動を促した。
シタテルヒメも愛する夫を失い失意の真っただ中にあるはずなのだが、気丈にもわたしの言った通りワカヒコの両親のもとに近づいていった。
そして両親の手を取ると、いたわるように言った。
「天の機織り娘が掛けている首飾りの穴を通り抜けるように、三つの山を二股で駆け抜けていった神、その神はわたくしの兄、アジスキタカヒコネだったのです・・・」
両親に、先ほどの神は死んだワカヒコではなかったと教えたのである。
これを聞いた両親は、少し落ち着きを取り戻したようだった。二人は立ち上がり、シタテルヒメに丁寧にお礼と慰めの言葉をかけていた。
そして傍らで見守っていたわたしにも一礼すると、高天原に帰っていった。
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☆倭文神社
ワカヒコの没後、シタテルヒメは伯耆に移り住み、そこで生涯を終えました。 鳥取県東伯郡湯梨浜町の倭文神社がその地だと言われています。
☆賣豆紀神社
シタテルヒメを祀る神社。境内にはシタテルヒメが詠んだ歌の歌碑が建立されています。
☆喪山
アジスキタカヒコネが蹴飛ばした喪屋は、遠く美濃の国まで飛んで行ってしまいました。岐阜県美濃市の喪山だと云われています。
☆高鴨神社
まあしかし、葬式の場で暴れるとは、アジスキタカヒコネもはた迷惑な神ですね。しかし古事記では「迦毛大御神(かものおおみかみ)」とも記載され、大和の加茂氏の氏神とされています。奈良県御所市の高鴨神社に祀られています
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