わたしはスセリヒメを背負うと、スサノオさまの屋敷を抜けだした。うまくいったかのように見えた。
しかし・・・
スサノオさまの宮殿を出た時だった。背負っているスセリヒメが持っていた琴が、そばに立っていた木に触れたのだ。
ぐわ~わあ~~ん!!
木に触れた琴は、大きな音をたてた。
・・・宮殿から聞こえていたスサノオさまのいびきがぴたっとやんだ。次の瞬間である
どか~ん!! がっしゃ~~ん!
大音響が響いた。
スサノオさまの宮殿が一気に崩壊したのだ。もうもうと土煙がまいたち、私たちのほうに飛んでくる。
わたしは逃げ出す時、眠っているスサノオさまの髪の毛を宮殿の柱に縛り付けておいた。そのことを知らずにスサノオさまは起き上がり、その衝撃で柱が外れて宮殿が崩壊したのだろう。
うおおーーっ!!!
スサノオさまの雄たけびが聞こえる。腹の底まで響く、恐ろしい声だ。
若いころにはその声で、野山を枯らし川も海も干上がらせてしまったという・・・
わたしは逃げる足を速めた。
幸い、スサノオさまはまだ追ってはこない。おそらく髪の毛に結ばれた柱をほどくのに、手間取っているのだろう。
わたしは根の国と地上日本の境にある黄泉比良坂(よもつひらさか)を駆け上がる。
その時、わたしたちを追ってくるスサノオさまが見えた。
しかし、私たちはすぐに地上日本にたどり着いた。根の国の神スサノオは、地上までは追っては来れないだろう・・・
その時だった。スサノオさまの大声が響いた。
「わっはっは!こいつは愉快だ!
おーい、オオナムヂ!もう追いかけぬから聞け!」
その声に私は立ち止まり、背中からスセリヒメを降ろした。振り向くと、坂の下にスサノオさまが仁王立ちになっているのが見えた。
「オオナムヂ!お前が持っている生太刀(いくたち)・生弓矢(いくゆみや)の前に、敵はないはずだ!お前の異母兄たちを山の尾根に攻め伏せ、川の瀬に追い払え!
我が娘スセリヒメを正妻として、宇迦の山のふもとに地に深く柱を立てて天に届くような宮殿を造り、そこで末永く暮らせ!
・・・おい、分かったか、この野郎!!」
わたしとスセリヒメは、スサノオさまに一礼して、その場を離れていった。
わたしはこの時からオオナムヂを改め、オオクニヌシを名乗るようになった。
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☆オオナムヂからオオクニヌシへ
こうしてオオナムヂは、スサノオからオオクニヌシ(大国主命)という名をもらいました。この後、その名のごとく、日本の国の主としての活躍が始まります。
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