古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

部屋とひれと私

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スサノオさまに「寝室に案内してやる」と言われて、閉じ込められた部屋で見たもの・・・

 

・・・それは・・・

 

蛇!・・・だった!

 

床には足の踏み場もないほど、無数の蛇がうようよしている・・ちょっとでも油断すれば食いつかれてしまうだろう・・

中には毒蛇も数多く混ざっていた。毒蛇にかまれたら、有効な治療法の無いこの時代、もうそれで終わりだ。苦しんで死ぬしかない・・・

 

わたしは青ざめ、途方に暮れた。一晩中立ったまま、この蛇をよけながら過ごさなければならないのか・・・

気が遠くなった・・

 

その時だった

「オオナムヂさま・・・オオナムヂさま・・・」

 

私を呼ぶ声が聞こえる。あかり取りの窓の方からだ。

 声が聞こえるほうを振り向いた。あかり取りの窓からは、スセリヒメが部屋の中を見ていた・・・

わたしはあかり取りの窓のほうに近づく。

 

するとスセリヒメは、一枚のひれをわたしに差し出した。

 

「オオナムヂさま、これは蛇除けのひれでございます。このひれを三度お振りくださいませ、蛇は逃げていきます」

「・・・ありがとう、スセリヒメ」

わたしはひれを受け取った。

するとスセリヒメはすぐに去っていった。あまり長くいて父神のスサノオさまに見つかったら大変だと思ったのだろうか。

 

私は半信半疑だった・・・こんな布切れを振っただけで蛇が逃げていくなんて、本当か・・・

しかし、やってみるよりほかに方法はなかった。

 

言われた通り、ひれを三回、振って見た。すると・・・

 

スセリヒメが言ったことは本当だった!

蛇はわたしの足元から一斉に逃げ出し、部屋の隅に寄っていったのだ!

 

おかげで私は体を横たえて、ゆっくり旅の疲れをいやすことができたのだった。

 

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☆ひれ

 

 ひれは漢字で「領巾」「肩巾」と書き、古代に女性が首から肩にかけてたらした装飾用の布を言います。

 

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↑「いらすとや」からひろってきたアマテラスのイラスト。このピンクの布が「ひれ」ですね。

 

この「ひれ」は単なる装身具ではなく、これを振ることにより害虫や毒蛇を追い払う呪力を持つと考えられてきました。

 

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