ニニギの自伝 11
さて、わたしが高千穂に降臨して数か月がたった。このころになると身の周りも落ち着き、わたしは政務に精を出していた。
そんなある日、わたしは高千穂の宮を離れ、巡幸に出ていた。民の暮らす村々を見て回り、民からの歓迎を受けつつ様々な陳情を受けた。
その途中のことだった。
笠紗の御前(かささのみさき)を通った時、そこの泉で水くみをしている娘がいた。その娘の美さに、わたしは心を奪われてしまったのだ。
この娘、ぜひともわたしの后に迎え入れたい・・強い気持ちが湧き上がり、抑えきれなくなった。
私は馬を降りて、その娘のもとに近づいた。
娘は振り返り、わたしと大勢の従者を見て、ただならぬ雰囲気を察したようだ。おびえたような表情をして震えている。
わたしは娘に語り掛けた。
「心配しなくていい。わたしは天の御子、ニニギだ。」
これを聞いた娘は少し驚きの表情に変わったようだった。まあ、無理もない。まさか天の御子から語り掛けられるとは思ってもみなかったのだろう。わたしは続けて言った。
「そなたの名は何という?」
「はい・・わたくしはオオヤマツミの娘で、名はコノハナサクヤヒメと申します。」
「そうか、オオヤマツミというと山の神だな。そなたは山の神の娘なのか。
ところで、コノハナサクヤヒメ!わたしはそなたを后として迎え入れたいのだが、どうだろう?」
「え・・・いきなり申されましても・・・父上に伺ってみませんと、なんとも・・」
まあ、それもそうだろう。
そこでわたしは従者を一人、娘に従わせてオオヤマツミの屋敷まで送らせた。そしてオオヤマツミの返事をきいてくるように命じると、わたしは一足先に巡幸先で滞在している仮宮に帰っていった。
やがて、従者がオオヤマツミの屋敷から戻ってきて、報告した。
「オオヤマツミの大神は、娘が天の御子に見初められたことを大変お喜びでした。つきましては、コノハナサクヤヒメに姉のイワナガヒメも添えて、明日、ニニギさまのもとに送り届けるとのことでした」
これを聞いたわたしは天にも昇る気持ちだった・・・あ、いや、その天から降りてきたのだが・・・
あの美しいコノハナサクヤヒメに加えて、姉まで一緒に来てくれるとは・・・コノハナサクヤヒメの姉だから、どんなにか美しい娘だろう・・・
明日、二人の姉妹に会うのが楽しみで、その夜はなかなか寝られなかった。
≪コノハナサクヤヒメが水をくんでいたと伝わる逢初川(宮崎県西都市)≫
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☆コノハナサクヤヒメとの出会いの地
その地は古事記では「笠紗御前」(かささのみさき)と記されています。その地は一般的には鹿児島県南さつま市笠沙町とされています。
ほかにも諸説あり、西都市の都万神社、延岡市の愛宕山などにも伝承が残っています。
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