古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

叔母の前で泣く

f:id:karibatakurou:20200331014241j:plain

 

ヤマトタケルは、再び伊勢のヤマトヒメのもとに来ていた。

 

「叔母上・・・」

「あら、オウス・・・今はヤマトタケルだったわね。西国を平定したっていうじゃない、よく頑張ったわねー!」

 

ヤマトヒメは喜び一杯の顔でヤマトタケルを歓迎した。

 

しかしヤマトタケルは、母親のごとく慕っているヤマトヒメを見るなり、泣き出してしまった。

 

「ああ、叔母上・・・」

「ちょっと、どうしたの」

「叔母上・・・父の天皇は、私を死ねばいいと思ってるのでしょうか・・・」

「え?どういうこと?」

「私は天皇の命を受けて、西国の悪人どもを征伐し朝廷のもとに平定して、帰ってまいりました。しかしまだそれから時も立っていないのに、今度は東国の征伐を命じられたんです・・・

・・・それも、軍勢もつけず・・・与えてくれたのは一人の従者と、ヒイラギの矛だけ・・・こんなのが何の役に立つんだ・・・

・・ああ、父上はやっぱり、私を死ねばいいと思っているんだ・・・」

 

ヤマトタケルはヤマトヒメの前でいつまでも泣いていた。

 

前<<<  東国平定を命じられる - 古事記の話

次>>>  ヤマトヒメ、草薙剣を授ける - 古事記の話



古事記上巻 日本神話 目次
古事記中巻 神武天皇~応神天皇 目次

 

☆倭建命と日本武尊

 

どちらも「ヤマトタケルのみこと」ですが、前者は古事記、後者は日本書紀での表記です。漢字だけでなく、この両者のキャラクターは大分違ってきてます。

 

古事記の「倭建命」は兄オウスを無残に殺して父の天皇から嫌われました。熊襲征伐から帰ってはじめてそのことに気づき、叔母のヤマトヒメのもとで泣きごとを言う。まことに人間味あふれる書き方をされています。

一方日本書紀の「日本武尊」は完全無欠の、非の打ち所のない英雄。天皇からの信頼も厚く、あくまでも天皇に忠誠を誓うヒーローとして描かれています。

 


≪リンク≫
 
カリバ旅行記
温泉の話
駅弁の話
古事記ゆかりの地を訪ねて