タギシミミの反逆を知った3人の御子たち、ここは先手を打って、タギシミミを亡き者にしてしまおうと考えた。早速今夜に実行することにした。
しかし長兄のヒコヤイミミはおじけづき、逃げ出してしまった。そこで次兄のカムヤイミミと、末子のカムヌナカワで決行することにした。
その日の深夜、カムヌナカワは兄カムヤイミミに言った。
「ヒコヤイミミが逃げ出した今、皇位を継ぐのは兄上です。だから兄上が剣を持ち、タギシミミを自らの手で斬って、次の皇位を確実なものにしてください」
二人はそっと、タギシミミが寝ている寝室に忍び込んだ。
しかし・・・いざ敵を目の前にして、カムヤイミミは恐ろしくなり、手足がガタガタ震えだした。とても剣を振り上げるどころではなかった。
「兄上!何をしているのですか!さあ、早く!」
そういわれてカムヤイミミは剣を上げようとするが、その手は震えて、狙いが定まらなかった。
「ん・・・なんだ・・・」
気配にタギシミミは目を覚ました。もはや一刻の猶予もない。カムヌナカワはカムヤイミミから剣をもぎ取ると、迷わずタギシミミの胸に突き刺した。
タギシミミは、悲鳴を上げる間もなく絶命した。
まだふるえてるカムヤイミミに、カムヌナカワはたしなめるように言った
「兄上!もう大丈夫ですよ。しっかりなさいませ!兄上は皇位をつぐ身なのですよ」
少し落ち着きを取り戻したカムヤイミミは言った
「・・・カムヌナカワ、次の皇位はお前がつくがいい」
「え・・・?兄上、なにをおっしゃいます!?」
「わたしは敵を目の前にしても何もできず、敵を斬ったのはお前だ。こんなざまでは、とても人の上に立つことはできない。天下を治めるのはお前のほうがいい。
わたしは神官として神に世の中の平安を祈りながらお前に仕えよう」
こうしてカムヌナカワが二代目の天皇として即位した。後に綏靖天皇と呼ばれるようになる。
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古事記中巻 神武天皇~応神天皇 目次
☆カムヤイミミ
海幸・山幸3兄弟の山幸彦ことホオリ、ウガヤフキアエズの4兄弟で神武天皇となったイワレに続き、ここでも3兄弟の末子が皇位を受け継ぎました。
古代日本では末子相続が社会ルールだったようです。
弟に皇位を譲ったカムヤイミミは、多坐弥志理都比古神社(おおにますみしりつひこじんじゃ)に祀られています。「弥志理都比古(みしりつひこ)」とは「身退りつ日子」、つまり自ら退いた日の御子、という意味だそうです。
☆欠史八代
第2代綏靖天皇から第9代開化天皇までは、天皇の事績の記述がなく、宮・陵墓・系譜などが記載されているだけです。欠史八代と言われ、実在しないというのが定説です。(実在したという説もあります)