神武天皇の自伝 番外編 4(カムヤイミミの自伝)
わたしは弟のカムヌナカワミミと二人、タギシミミを討つべく白檮原宮(かしはらのみや)に忍び込んだ。
見張りの目をかいくぐり、タギシミミが寝ている寝室の前まで来た。
「よし、カムヌナカワミミ、いくぞ」
わたしは言った。
「兄上、しっかり! 長兄のヒコヤイが逃げ出した今、父の後を継いで天皇(すめらみこと)の地位を受け継ぐのは次兄である兄上です。なので兄上の手でタギシミミを討ち、次の皇位を確実なものにしてください」
「おう、任しとけ!」
そっと部屋に忍び込み、タギシミミが寝ているそばまで来た。わたしは剣を振り上げようとした・・・が・・・
急に恐怖が襲ってきて、手足が震えだしたのだ・・・脂汗が流れ出し、剣を持っているのもやっとだった・・・
「兄上、何をしているのですか!早く!」
カムヌナカワが耳元でささやく。それを聞いて、わたしは再び剣を振り上げようとした・・・しかし、無理だ・・・恐ろしくて、わたしにはできない・・・
・・・その時・・
「・・・ん・・・なんだ?・・・」
タギシミミが目を覚ましたのだ!やばい、このままでは・・・早く殺らねば・・・しかし・・・手も足もすくんで動かない・・・
・・・その時・・・
カムヌナカワがわたしの手から剣をもぎ取った。かと思うと、一撃でタギシミミの急所を突きさしたのだ!!
・・・タギシミミから血が噴き出て飛び散る・・・タギシミミは、悲鳴を上げる間もなく、絶命してしまった・・・
タギシミミを討ったのは弟だった・・・わたしは自分が情けなくて、いたたまれなくなった・・・わたしはまだ震えが止まらなかった・・・
「兄上、もう終わりましたよ!しっかりなさってください!兄上は皇位を受け継ぐ身なのですよ!!」
カムヌナカワミミが言った。その声で少し落ち着きを取り戻したわたしは
「カムヌナカワミミ、次の皇位はお前が継ぐがよい」
と言った。
「ええっ!兄上、何を言われるのですか!?」
「わたしは敵を目の前にして何もできなかった・・・敵を討ったのはお前だ・・・わたしがこんな有様では、いくら兄と言ってもとても人の上に立つことはできない。
カムヌナカワミミ、父上の後を継いで日本の国を統治するのはお前だ。わたしはお前を助け、神に天下の安寧を祈っていこう」
こうして、弟のカムヌナカワミミが父イワレに続き、二代目の天皇(すめらみこと)となった。
わたしはカムヌナカワミミに約束した通り、宮を出て磐座神籬(いわくらひもろぎ)を立て神に祈りながら暮らしている。
ー 神武天皇の自伝 番外編(カムヤイミミの自伝) 完 ー
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☆二代目天皇とカムヤイミミ
こうしてカムヌナカワは二代目の天皇(すめらみこと)として即位しました。後に綏靖天皇(すいぜいてんのう)と言われるようになります。
宮は葛城髙岡宮(かつらぎのたかおかみや、日本書記での表記は「高丘宮」)、御陵は神武天皇陵の北側にある桃花鳥田岡上陵とされています。
≪綏靖天皇御陵≫
皇位を譲ったカムヤイミミは奈良県磯城郡田原本町の多坐弥志理都比古神社(おおのますみしりつひこじんじゃ)に祀られています。「弥志理都比古」とは「身退りつ日子」つまり自ら皇位を退いた皇子という意味だそうです。
☆吾田神社
宮崎県日南市にあり、タギシミミの御陵とされています。大和で殺されたタギシミミですが、遺体は故郷に送られてきたのでしょうか。
☆神武天皇の自伝 番外編 完結です
最後までお読みいただきありがとうございました。
次は最初の実在の天皇と言われる第10代崇神天皇の物語をこのブログ内で書いていこうと思います。来月にも公開を開始いたしますので、よろしくお願い申し上げます。
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