イワレはミチノオミとオオクメを伴ってエウカシの屋敷にやってきた。
エウカシは満面の笑みを浮かべながらイワレたちを出迎える。
「天の御子様、ようこそおいでくださいました。さあ、あちらに歓迎のための御殿を用意してあります。どうぞ、中にお入りくださいませ。」
しかし、既にオトウカシの進言でエウカシのたくらみを見抜いていたイワレは、そこから動かない。変わって前に出てきたのは、ミチノオミとオオクメだった。
二人は剣を抜くと、エウカシに突き付けた。
「お前の作った御殿だ。まずお前が先に入って、天の御子に仕えるさまを見せて見よ」
エウカシは自分の策略がすでに見抜かれていることを知った。さっきまでの笑顔はたちまち消え、青くなった。しかし、いまさらどうしようもなかった。
ミチノオミとオオクメは鋭い眼光で剣を突き付け、少しずつエウカシに迫っていく。逃げようとすれば、一瞬にして斬られてしまうだろう。
エウカシは震えながら後ずさりする。しかしその先には・・・
エウカシの片足が、自分が作った御殿の入り口の板を踏んだ。次の瞬間
バタン!!
ぎゃっ!!
大音響とともに板が跳ね上がり、一瞬エウカシの悲鳴が聞こえたようだった。
しかし次の瞬間、静寂が包んでいた。辺りはエウカシの地と肉片が生々しく飛び散っていた。
その地は宇陀の血原と呼ばれるようになった。
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☆宇陀の血原
奈良県宇陀市の南方に宇賀志という地名が残っており、エウカシ・オトウカシ(兄ウカシ・弟ウカシ)の兄弟の本拠地と考えられます。
この地の宇賀神社はもともとこの兄弟を祀っていたとも云われ、そばを流れる川は血原川というそうです。