ある日、オオクニヌシとスクナビコナは伯耆の国に来ていた。ここはスクナビコナの尽力により豊かな粟の畑が広がっていた。
一面に広がる粟を見ながら、オオクニヌシがスクナヒコナに言った。
「どうだろう、私とそなたが作ったこの日本の国、よくなっていると言えるだろうか」
その問いにスクナビコナは
「そうですね、しっかり出来上がっているところもあり、まだまだ未完成のところもありますね」と答えた。
「うむ、そうだな・・・国づくりに終わりはないな・・・スクナビコナ、これからもよろしく頼むぞ。日本の国をよくするために、これからも力を貸してくれ」
オオクニヌシがスクナビコナに言った。しかしスクナビコナは、しばらく黙っていた。
「どうした、スクナビコナ?」
「オオクニヌシさま、私が持っている知識は、もう全部日本の民に伝えました。これ以上、私が日本で行う仕事は無いのです」
「なに?それはどういうことだ?」
「お別れです。私は遠い国に行かねばならないのです」
そういうと、スクナビコナは豊かに実った粟畑に入っていき、そのうち一本の粟の茎に上ったかと思うと、その茎に自分の全体重をかけてぶら下がった。粟の茎がスクナビコナの体重で大きくしなる。
「おい!スクナビコナ!待て!行くんじゃない!」
オオクニヌシが叫ぶ。しかし、次の瞬間、大きくしなった粟の茎は、ピーンと元に戻った。その勢いでスクナビコナははじかれ、風に乗って空のかなたに飛ばされていった。
しかし、スクナビコナが飛んで行ったあとは、静寂がオオクニヌシを包んだ。
スクナビコナが飛んで行ったほうからそっと風が吹いてきた。風に吹かれた粟の穂がさわさわとなった。
「オオクニヌシさま、私がいなくでも、あなたなら大丈夫ですよ」
と、スクナビコナが言っているようだった
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☆粟嶋神社
この話、古事記にはありません。日本書紀の別伝である「一書(あるふみ)」に収録されている話です。古事記では「スクナビコナは常世の国に行った」と一行だけ記載されています。
この話の舞台は鳥取県米子清彦名町の粟嶋神社と言われています。