スクナビコナという心強い右腕を失ったオオクニヌシ、その心は沈んでいた。
しかしオオクニヌシは日本の統治者である。いつまでも落ち込んでいるわけにはいかなかった。オオクニヌシは日本の国を治めるため多忙な毎日を送っていた。
ある日、オオクニヌシは美保岬の海岸に来ていた。スクナビコナと初めて会った場所である。
「スクナビコナ・・・お前がいてくれたら、日本の国はまだまだよくなっていただろうに・・・」
かつて、スクナビコナが流れてきた海を見ながら、オオクニヌシはその時のことを思い出していた。
「ああ・・・これからわたし一人で、どうやって日本の国を作っていけばいいのだろう・・・」
オオクニヌシの胸は不安でいっぱいだった。
そのときだった・・・
海のほうから明るい光が差し、オオクニヌシを包んだのだった。
オオクニヌシは光のさす方向、海のはるか沖を見つめる。すると沖のほうから、光の中を一柱の神が近づいて来るのだった。
神はオオクニヌシの前に来ると、厳かに行った。
「オオクニヌシよ、わたしを丁寧に祀るがよい。そうすればわたしはそなたと一緒に、より良き日本の国を作っていこう。
もしそのようにしなければ、そなたの国づくりはうまくいかないであろう」
そこで、オオクニヌシはかしこまって訊いた。
「あなた様をお祀りするにはどのようにすればよろしいでしょうか」
海から来た神が答える。
「大和の国は山に囲まれている。その中で、東のほうにある山にわたしを祀るがよい」
そこで早速、オオクニヌシは大和に出向き、東の御諸山に祠をたて、その神を祀った。
大和盆地の東、三輪山に祀られているオオモノヌシである。
オオモノヌシが守り、オオクニヌシが統治する日本はますます発展していった。
前<<< スクナビコナ、去る - 古事記の話
次>>> アマテラス、焦る - 古事記の話
☆三輪神社
古事記ではここでは神の名前は記載されていません。後に天皇の御代となり、三輪山の神の話が出てきてここでオオモノヌシという名が明かされます。
日本書紀では、オオクニヌシの幸魂・奇魂(さきみたま・くしみたま)ということになっています。すなわちオオモノヌシとはオオクニヌシ自身の分霊かもしれません。
オオモノヌシは今も大和の三輪神社に祀られています。本殿がなく山自体を御神体とする古い形態を残しています。
☆金毘羅宮
「 ♪ こんぴらふねふね おいてにほかけて しゅらしゅしゅしゅ~」の、讃岐の金毘羅宮。ここに祀られている祭神もオオモノヌシです。