古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

スサノオ、ヤマタのおろちを退治する

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準備は整った。

「それでは、皆さんは家に帰って、家の戸をしっかり締めておいてください」

スサノオは村人に呼びかけ、村人は各々の家に帰っていった。

 

「さあ、これでよし。アシナヅチさん、テナヅチさんも、家の中に入って、戸をしっかり締めとくんだよ」

そういうと、スサノオは一人、庭に生えている高い木に登って、その時を待った。

 

やがて日も沈んだころ、ずずーんという不気味な地響きが鳴り響いた。遠くを見ると、山から不気味なうごめく雲が沸き立っている。

「おう、おろち殿のお出ましだな・・・」

スサノオは身震いした。恐怖からではない。体中には武勇の神としての使命感がみなぎっていた。

 

うごめく雲はだんだん大きく近づいてきた。その雲の下には、昨日アシナヅチから聞いた通りの、恐ろしい姿がはっきりと見て取れた。

 

おろちはアシナヅチの屋敷に近づいた。

屋敷の周りは垣根が張り巡らしてあり入ることはできない。おろちはこんなもん、踏みつぶしてやれ・・・と思ったが、ふといい香りに気づいた。

垣根には八つの門がついており、その門から香りが漂っている。

 

おろちは門から首を突っ込んだ。そこにある酒を見つけた。おろちも酒には目がない。

八つの頭を八つの門から突っ込むと、ずずずーっと飲み干してしまった。

 

とにかく強い酒を八つの頭で一気に飲み干してしまったのだからたまらない。おろちの体にはたちまち酔いが回り、酒樽に頭を突っ込んだまま、ぐうぐういびきをかいて眠ってしまった。

 

「よし、いまだ!」

スサノオは十束の剣を手に取るとおろちの頭に向かって斬りつけた。オオゲツヒメを殺してしまった剣は、今、人々を救う希望の剣に変わっていた。

 

おろちの頭が一つ吹き飛んだ。残った頭がぎゃーと叫ぶ。山も家も揺れ動くほどの大音響だ。おろちは反撃しようとするが、しこたま酔っている上に、頭を突っ込んでいる門が邪魔になって身動きが取れない。

スサノオはお構いなしに次から次へと切り付けていく。流れる血は斐伊川を真っ赤に染めてしまった。

頭を斬り、さらに尻尾も斬っていく。その時だった。

 

カキーン

 

甲高い音がした。見ると斬りつけた剣の刃が欠けている。

スサノオは不思議に思い、刃の先で切り裂いて見ると、そこには一本の立派な剣が埋まっていた。

 

やがて、おろちは動かなくなった。スサノオの完全勝利だった。

 

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古事記の話 目次

 

 

斐伊川

 

 

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島根県東部を流れる斐伊川

何度も洪水を起こしては付近の村々や田畑を飲み込み、その流路を変えてきました。その洪水による被害を表現したものが、ヤマタのおろち伝説だと言います。

また、昔、付近では製鉄が盛んでした。そのころ河原は酸化鉄で真っ赤になっており、これが「流れる血は斐伊川を真っ赤に染めた」という話のもとだとも言います。

 

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