古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

スサノオ、追放される

f:id:karibatakurou:20190708041107p:plain

 

アマテラスが岩屋から出てきて、世界には光が戻った。

 

しかしアマテラスが岩屋にこもるようになったのは、そもそもスサノオが乱暴を働いたからなのだ。スサノオをこのままにしておくわけにはいかない。

 

スサノオは既に神々の手により捕らえられていた。

神々は、スサノオの財産をすべて没収し、鬚を切り、手足の爪も切った。そして高天原から追放した。

 

スサノオは日本に降りていった。日本に降りると、まずオオゲツヒメを訪ねた。オオゲツヒメイザナギイザナミが生んだ神の一人で、食物の神である。

神々に捕らえられて以来、何も食べてないので空腹だった。何の当てもないので、昔からの知り合いであるオオゲツヒメを頼っていったのである。

 

「あら、いらっしゃい、よく来たわね。高天原のこと、聞いたわよ。まあ、自業自得とはいえ、大変だったね」

オオゲツヒメスサノオを見ると、喜んで迎え入れた。

 

スサノオ、どうしたの?暴れん坊のお前らしくもない!もっとシャキッとしなきゃ!」

「ああ、ありがとう・・・オオゲツの姉さん、オレ、腹が減って・・・」

「なんだ、そうだったのね、待ってなさい。美味しい物、作ってあげる」

オオゲツヒメは台所のほうに入っていった。

 

スサノオは待とうと思ったが、あまりの空腹に待ちきれない。どんなものを食べさせてもらえるんだろうかと、台所を見に行った。

 

するとそこには、口から食べ物を出しているオオゲツヒメがいた。スサノオはぞっとした。

 

オオゲツヒメスサノオが見ていることに気づかない。鼻の穴からも食べ物を出し、また尻の穴からも食べ物を出していた。スサノオは青ざめた。そして怒りに変わった。

 

オオゲツヒメは食物の神である。だから自分の体から食べ物を出しても何の不思議はない。しかし、スサノオはすっかりそのことを忘れていた。嘔吐物や大便を自分に食べさせる気か!と思い込んで激怒し、オオゲツヒメの前に飛び出してしまった。

 

「あら、スサノオ、どうしたの?すぐできるから、あっちで待ってて」

 

しかしその言葉は、スサノオの耳には入らなかった。

手には十束の剣(とつかのつるぎ)を握っていた。

スサノオは剣を振り上げたかと思うと一刀両断、オオゲツヒメを斬り殺してしまった。

 

ところで・・・

 

この一部始終を、偶然、造化三神の一人、カミムスビが見ていた。スサノオオオゲツヒメの家から血だらけで飛び出したのを見ると

「ふうー」

と、ため息をついて高天原から日本に降りてきた。

 

カミムスビオオゲツヒメの家に入ると、オオゲツヒメの遺体の頭からは蚕が生まれていた。ふたつの目からは稲が生え、ふたつの耳からは粟が生え、鼻からは小豆が生えていた。下半身の陰部からは麦が生え、尻からは大豆が生えていた。

 

カミムスビはそっとこれらの種をそっと手に取ると、日本の民の手元にそれを送り届けた。

 日本の民は 、その種を植え、育てていった。

 

こうして日本の国はますます豊かになっていった。

 

前<<< 光が戻る - 古事記の話

次>>> スサノオ、箸を拾う - 古事記の話

 

古事記の話 目次

 

 

☆五穀

 

この話は「五穀の起源」としてよく語られます。五穀とは「五つの主要な穀物」の意味で、その内容は時代・地域によって違ってきます。

 

オオゲツヒメの遺体は6つの作物に変化しているのですが、「蚕」は穀物とは言えませんから、まあ五穀であってるんでしょうね。

 

ちなみにこの話、日本書紀の別伝ではツクヨミの物語として収録されています。日本神話では影の薄い月の神様の、唯一の神話であります。

 

≪リンク≫

 

カリバ旅行記
温泉の話
駅弁の話