アマテラスが岩屋から出てきて、世界には光が戻った。
しかしアマテラスが岩屋にこもるようになったのは、そもそもスサノオが乱暴を働いたからなのだ。スサノオをこのままにしておくわけにはいかない。
スサノオは既に神々の手により捕らえられていた。
神々は、スサノオの財産をすべて没収し、鬚を切り、手足の爪も切った。そして高天原から追放した。
スサノオは日本に降りていった。日本に降りると、まずオオゲツヒメを訪ねた。オオゲツヒメはイザナギとイザナミが生んだ神の一人で、食物の神である。
神々に捕らえられて以来、何も食べてないので空腹だった。何の当てもないので、昔からの知り合いであるオオゲツヒメを頼っていったのである。
「あら、いらっしゃい、よく来たわね。高天原のこと、聞いたわよ。まあ、自業自得とはいえ、大変だったね」
「スサノオ、どうしたの?暴れん坊のお前らしくもない!もっとシャキッとしなきゃ!」
「ああ、ありがとう・・・オオゲツの姉さん、オレ、腹が減って・・・」
「なんだ、そうだったのね、待ってなさい。美味しい物、作ってあげる」
オオゲツヒメは台所のほうに入っていった。
スサノオは待とうと思ったが、あまりの空腹に待ちきれない。どんなものを食べさせてもらえるんだろうかと、台所を見に行った。
するとそこには、口から食べ物を出しているオオゲツヒメがいた。スサノオはぞっとした。
オオゲツヒメはスサノオが見ていることに気づかない。鼻の穴からも食べ物を出し、また尻の穴からも食べ物を出していた。スサノオは青ざめた。そして怒りに変わった。
オオゲツヒメは食物の神である。だから自分の体から食べ物を出しても何の不思議はない。しかし、スサノオはすっかりそのことを忘れていた。嘔吐物や大便を自分に食べさせる気か!と思い込んで激怒し、オオゲツヒメの前に飛び出してしまった。
「あら、スサノオ、どうしたの?すぐできるから、あっちで待ってて」
しかしその言葉は、スサノオの耳には入らなかった。
手には十束の剣(とつかのつるぎ)を握っていた。
スサノオは剣を振り上げたかと思うと一刀両断、オオゲツヒメを斬り殺してしまった。
ところで・・・
この一部始終を、偶然、造化三神の一人、カミムスビが見ていた。スサノオがオオゲツヒメの家から血だらけで飛び出したのを見ると
「ふうー」
と、ため息をついて高天原から日本に降りてきた。
カミムスビがオオゲツヒメの家に入ると、オオゲツヒメの遺体の頭からは蚕が生まれていた。ふたつの目からは稲が生え、ふたつの耳からは粟が生え、鼻からは小豆が生えていた。下半身の陰部からは麦が生え、尻からは大豆が生えていた。
カミムスビはそっとこれらの種をそっと手に取ると、日本の民の手元にそれを送り届けた。
日本の民は 、その種を植え、育てていった。
こうして日本の国はますます豊かになっていった。
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☆五穀
この話は「五穀の起源」としてよく語られます。五穀とは「五つの主要な穀物」の意味で、その内容は時代・地域によって違ってきます。
オオゲツヒメの遺体は6つの作物に変化しているのですが、「蚕」は穀物とは言えませんから、まあ五穀であってるんでしょうね。
ちなみにこの話、日本書紀の別伝ではツクヨミの物語として収録されています。日本神話では影の薄い月の神様の、唯一の神話であります。
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