古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

光が戻る

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ここはアマテラスがこもる天の岩屋の前。太占にも使った桜の薪がうずたかく積まれていた。その周りを八百万の神々が取り囲む。

 

踊りの神・ウズメは岩戸の前に桶を伏せてスタンバイしていた。その衣装はカズラをたすき掛けに身にまとっただけで、体のほとんどが露出したきわどい姿だ。髪にはマサキの飾りをつけ、天の香具山の笹を両手に持っていた。

力持ちのタヂカラオはそっと岩屋の陰に隠れた。フトダマが榊の枝を持ち、その横ではコヤネが準備を整え構えていた。

 

「では始めましょう」オモイカネが合図をした。

桜の薪に火がともされた。たちまち燃え上がり、日は明々と周囲を照らす。

この明かりに長鳴鳥たちは朝が来たと勘違いして、一斉に「こけこっこー」と泣き出した。

フトダマが榊の枝を振り、コヤネは祝詞を唱える。

 

ここでウズメが伏せた桶の上に上がった。そのなまめかしい半裸の女神を見て、八百万の神は「おーっ」と声を上げる。

ウズメは両手に持った笹を振りながら激しく踊る。その姿はまさに神がかりしたかと思うほどだった。いや、ウズメ自身、神なのだが・・・

 

カズラの衣装がずれて隙間からちらり、ちらりと見える。

 

最初手拍子をしていた八百万の神だったが、そのうち「オー!見えたぞー!」「ウズメー、こっちも向いてくれー!」とはやし立てるようになり、そんな声がかかるたびに神々はどっと笑っては割れるような拍手を浴びせる。

 

岩屋の中にこもっていたアマテラスは、外の騒ぎに気が付いた。何事か、と岩屋の隙間をそっと開けてみる。隙間から漏れた、アマテラスが発する一条の光が集まった神々を貫く。

しかし神々は気づかないふりをし、ウズメも踊りを続けた。

 

アマテラスは踊っているウズメを見つけ、声をかけた。

「ウズメ・・・ちょっと、ウズメ」

「あ、アマテラスさま、お久しぶりです!」

「ウズメ、これはどういうことなの?わたしが岩屋にこもってから、世界は暗闇のはず。なのになんでみんなこんなにうれしそうに騒いでいるの?」

「はい、アマテラスさま。実はアマテラスさまにも負けない、気高く尊い神様が遠い国からおいでになりました。これで高天原も地上の日本も助かります。なのでみんなでお祝いの宴を開いているのです」

「え、まさか・・・そんな神がいるの?」

 

「はい、こちらにいらっしゃいます」

そう言って近づいてきたのはフトダマとコヤネだった。二人は最初に準備した、勾玉と鏡がついた榊を持っている。

 

岩戸の隙間から漏れる光は勾玉に乱反射し、辺りは昼間のように明るくなった。その下の鏡には、アマテラス自身の顔が映っている。

 

「え、これが遠い国から来た尊い神・・・いったいどんな神なの?」

 

アマテラスはもっとよく見ようと、戸をそーっと広げ、身を乗り出した。その時だった。

岩屋の陰に隠れていたタヂカラオが飛び出てきたかと思うと、アマテラスの手を取り、岩屋の外に引きずり出した。

すかさずフトダマが躍り出て、岩戸の前に注連縄を張った。

「アマテラスさま、この中にはもう入ってはいけませんぞ!」

 

高天原と日本の国に光が戻った。

八百万の神々は、声をそろえて言った。

「アマテラス大御神さま、ばんざーい!!」

 

 

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古事記の話 目次

 

 

☆神社の儀式

 

かがり火を焚き、榊を振って祝詞を唱え、舞を奉納する・・・

現代にもそっくりそのまま受け継がれていますね。

 

もっとも、その舞がストリップショーというのはあまり聞きませんが・・・

 

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