数年の時が経った。
アマテラスとツクヨミは父神の指示通り、それざれの世界を統治している。
しかし、スサノオだけは海に行くことは無かった。いつまでも泣いていた。それも、尋常でない大きな声で泣き叫んでいるのである。
スサノオはもともと武勇の神である。それが大声で泣くのであるから、山も緑も枯れ、川も海も水が干上がってしまう。それだけではない、その声に邪神が引き寄せられ、民は疫病に、干ばつに苦しむようになっていった。
そのうち海に行くだろう、と見守っていた父神イザナギも、もはや我慢ができなくなっていた。
「スサノオ、お前どうして泣いてばかりいるのだ?なぜ海を治めに行かない?」
「お父様、オレはお母様に会いたい。お母様がいる根の国に行きたいんだ」
「なに?・・・」
意外な答えに、イザナギの表情が曇る。しかし、続けていった。
「だめだ、イザナミはもう死んだんだ。現世の神は死の世界に行くことはできない。それぐらい、わかるだろう?」
「いやだ、お母様のところに行く!」
ここにきて、イザナギは堪忍袋の緒が切れてしまった。
「だったら、どこへでも行くがいい。とにかくここには居るな!」
ここにイザナギは自分の力の限界を感じた。それにイザナギとイザナミで協力して産み、育てた日本の国は、これも二人で産んだ八百万の神々の下で繫栄している。
「もう潮時だ。あとは子供たちに任せて隠居しよう」
イザナギは近江の多賀に行き、そこでイザナミを弔いながら静かに過ごしたという。
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☆多賀大社
古事記ではイザナギの記述の最後は「イザナギの大神は淡海(おうみ)の多賀に鎮座されている」と結ばれています。現在の滋賀県犬上郡多賀の多賀大社とされています。
一方、日本書紀には「幽宮(かくれみや)を淡路の国に造り静かにお隠れになった」というのがイザナギに関する最後の記述です。古事記の「淡海」は「淡路」の誤記ではないかという説もあります。
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