ヤマトタケルの自伝 24
わたしは蝦夷の地を後にし、大和への帰路についた。
そして常陸から武蔵へと進んでいき、武蔵から相模の国境である足柄峠までたどり着いた。
わたしは足柄峠で休憩をし、食事をとることにした。
その時だった、我々のもとに一頭の鹿が現れた・・・見上げるほど巨大な、白い鹿だった!
「む・・・こいつ、ただものではないな・・・!」
そう、その巨大な白い鹿・・・見た目の恐ろしさだけではない!その姿に邪悪な霊気を感じたのだ・・・この鹿は、この山の神の化身に違いない・・・
わたしは従者らを後ろにさがらせると、食べかけのニラを鹿に向かって投げつけた!
果たしてその鹿は・・・わたしが投げたニラが目に当たり・・・
・・・そのまま死んでしまった。
古来より、ニラなどの野菜にはその強い手記に邪気を払う力があるとされていたのだ。
鹿は死んだが・・・なぜか私の心は、ここでまた沈んでしまったのだ・・・
・・・なんだろう、この感情は・・・
わたしは山の神である鹿を殺した・・・これまでもわたしは幾たびも、荒ぶる神、朝廷に従わない人々を倒してきた。
・・・わたしを遠ざけた父の天皇の命令で・・・自分を慕ってくれた妻のことも顧みずに・・・
「オトタチバナヒメ・・・」
涙とともに、自らの命も顧みず嵐の海に入り、わたしをすくってくれたオトタチバナヒメ・・・
坂の上でわたしはオトタチバナヒメが沈んだ東の海を見つめ・・・
わたしは思わず言っていた
「吾妻(あづま)はや・・・」(ああ、わが妻よ・・・)
わたしはいつまでも東の海を見つめていた・・・そこに
「ヤマトタケルさま・・・大丈夫ですか?」
優しい声がかけられた。振り向くと、そこにはオトタチバナヒメの姉、オオタチバナヒメが立っていた。
・・・そうだ、わたしのために死んだオトタチバナヒメのためにも、姉のオオタチバナヒメには優しくしてあげねば・・・
「大丈夫だよ、オオタチバナヒメ、さあ、行こう」
我々は再び大和への旅をつづけたのだった。
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☆足柄峠
ヤマトタケルが「あづまはや」と言ったので、その国のことを「あづま(東)」というようになった、と古事記には記述してあります。
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