イザナミの自伝 15
わたしは黄泉の神に呼びかけた。愛する夫イザナギが迎えに来てくれたこと、そしてわたしはイザナギについて日本の国に還りたいことを・・・
すぐにわたしの心の中に、黄泉の神の声が響いてきた
「わかった、考えてみよう。しばし時間をもらうぞ。その間、お前は休んでいるがよい」
その声を聴くと、突然わたしは強烈な眠気と、極度の疲労に襲われた。
わたしはそのまま体を横たえると、眠ってしまったのだった・・・
・・・どれくらいの時間がたったのだろうか・・・
かたっ
わたしの耳元の物音で目が覚めた。眼を開けると、あたりは明るい・・ここは一点の光もない黄泉の国のはずなのに、一体この光は、何なのだろう・・
わたしは光が差す方に首を回して見た。そこには・・
松明が明々と燃えていた。わたしが見た光は、この松明の明かりだった。そしてその松明を持っていたのは・・・愛する夫、イザナギだった
なぜここに・・・わたしは中には入らず、岩戸の外で待つよう言っておいたのだが・・待ちきれずに岩戸を破って入ってきたのだろうか
「イザナギ・・来てくれたの・・・」
わたしはイザナギに言った・・・しかし、イザナギは何も言わない・・・そのイザナギの顔、恐怖におびえて引きつっている・・・一体どうしたというのだ・・・
「イザナミ・・・お前・・・その身体・・・」
イザナギはおずおずと言った・・・その視線はわたしの身体に向いている・・
わたしはイザナギの持つ松明の光に自分の身体を見た・・これまで黄泉の闇の中で、何も見ることはできなかったのだ
その光に飛び込んで来た自分の身体・・・それは余にもおぞましいものだった・・・
わたしの身体は全身が腐り、手足は腐った肉片の間から白い骨が見え、腹は破れて腸が飛び出し、身体中に蛆が湧いてうようよと動いていた・・・そして身体中には蛆だけでなく小さな雷神が湧いていて、松明の光が差すとごろごろと、恐ろしい声で呻き始めたのだ・・
ううっ・・・自分の身体はこんなおぞましい姿だったのか・・・わたしはこの時、完全に思考が停止した・・・
つぎの瞬間
「うわああっ!!!」
イザナギの叫び声が響いたかと思うと・・
彼はもっていた松明を投げd差して、一目散に逃げだしたのだ!!
わたしは最初、茫然としていた・・・だが、イザナギの捨てた松明の残り火に照らされた、自分の恐ろしい姿・・・
これを見ているうちに、猛烈な感情が湧いてきた・・
・・・自分のこの醜い身体のくやしさ・・・元気で日本にいるイザナギへの羨望・・・入るなと言ったのに入ってきて、わたしの姿を見て逃げ出したイザナギへの怒り・・・そんなのが一気にわたしの心から噴き出してきたのだ
「ヨモツシコメたち、出ておいで!」
わたしは、黄泉の国でわたしの手下となったヨモツシコメを呼び出すと、命令した
「イザナギを追うのよ!!早く!」
前<<< 愛する夫、イザナギが来てくれた・・ - 古事記の話
次>>>
≪古事記・古代史関連の姉妹サイト≫
小説古事記
古事記ゆかりの地を訪ねて
≪その他の姉妹サイト≫
拙ブログをそのまま動画にしてみました。「オオクニヌシの自伝 2」をアップロードしております