古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

タケミナカタ、降参する

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オオクニヌシはもう一人の息子のほうを振り返り、言った

タケミナカタ、お前はどう考える?」

 

しかしタケミナカタと呼ばれた神は、そこには居なかった。

彼はというと、波打ち際のタケミカヅチのほうに向かって歩いていた。

どこから持ってきたのか、両手で大岩を頭上に持ち上げている。それこそ千人がかりでも持てないような大岩である。

 

タケミナカタは剣の先であぐらをかいているタケミカヅチに迫ると、言った。

 

「天の神がどんなに偉いか知らないが、今の日本は父上が苦労して築き上げたものだぞ!それを、国が豊かになったからって、本来は自分たちのものだから返せとは、何たる勝手な言い分!そんな要求がのめるか!」

 

その声はタケミカヅチに勝るとも劣らぬ、海の果てまで響くような恐ろしい声だった。

タケミカヅチはその勇猛さを買われて、オオクニヌシが率いる軍勢の指揮官として幾度も最前線に立った猛者である。

 

タケミナカタはにやりと笑ったかと思うと、頭上に掲げでいた大岩を放り投げた。大岩は剣の先であぐらをかいているタケミカヅチの頭上すれすれを飛び、はるかな海のかなたに落ちた。水面からどぼーんと大音響がひびく。

 

タケミカヅチは全く動じない。不気味な笑みを浮かべるだけである。

 

オオクニヌシは黙って事の推移を見守っていた。

 

タケミナカタはタケミカズチのすぐそばまで来たかと思うと、いきなりその腕をつかむ。

 

ぎゃあーっ

 

悲鳴が上がった。

 

いや、悲鳴を上げたのは腕をつかまれたタケミカヅチではない、つかんだほうのタケミナカタである。

タケミナカタがつかんだ瞬間、タケミカヅチの腕は氷の剣に変わっていたのだ。

 

タケミナカタはひるみ、思わず手を引っ込めた。すると今度は、タケミカヅチタケミナカタの腕をつかんだのだ。

タケミナカタにつかまれたタケミカヅチの腕は、まるでやわらかい若草をねじるようにひねりつぶされた。

 

さっきまでの勢いはどこに行ったのか、タケミナカタは一目散に逃げだしてしまった。

 

逃げるタケミナカタを、タケミカヅチは追う。

そして信濃諏訪湖まで追い詰め、とどめを刺そうとした。

 

苦しい息の中から、タケミナカタは両手を上げ必死に叫ぶ

「やめてくれ!殺さないでくれ!降参する。俺はこの諏訪の地にとどまり、他の場所にはいかない。父オオクニヌシや兄コトシロヌシの意向にも逆らわない、この国は天の御子に献上する!」

 

これを聞き、タケミカヅチはとどめを刺すのは思いとどまり、そのまま出雲の地に戻っていった。

 

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古事記の話 目次 

 

 

諏訪大社

 

11月は「神無月(かんなづき)」と呼ばれます。これは全国の神様が出雲大社に集まるため、神様がいなくなるからですが、神様が集まる出雲では「神在月(かみありつき)」と呼ばれます。

 

ところが、諏訪大社タケミナカタは「諏訪にとどまり他の地にはいかない」と約束したため、諏訪を離れることができません。このため諏訪地方でも「神在月」と呼ばれていたそうです。

 

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