稲佐の浜に、剣を逆さに立て、その切っ先にあぐらをかいて座るタケミカヅチ。そのタケミカヅチに一歩ずつ近づいてていくタケミナカタ。
両者の距離が縮まっていくにつれ、緊張も高まっていく。
わたしは黙って成り行きを見守っていた。
ついにタケミカヅチとタケミナカタは、互いに手が届くところまで近づいた。
そのとき、タケミナカタはあぐらをかいているタケミカヅチの腕をつかんだ。そのまま投げ飛ばすつもりだったのだろうか。
ぎゃーーーっ!!!
脳天が割れるような大きな悲鳴が響いた。
・・・いや、悲鳴を上げたのは、腕をつかまれたタケミカヅチではない・・・
つかんだほうの、タケミナカタのほうが悲鳴を上げたのだ。
つかまれたタケミカヅチの腕・・・それは鋭い氷の剣に変わっていた。それをつかんだタケミナカタ、思わず悲鳴を上げて手を引っ込めたのだ。
タケミカヅチはにやりと不気味な笑みを浮かべたかと思うと、逆にタケミナカタの手をつかんだ。
タケミナカタの腕はというと、まるで柔らかい若草をひねるようにいとも簡単にひねりつぶされ、その体は宙を舞い、投げ飛ばされていた。
ひいいーっ!!
タケミナカタは悲鳴を上げて逃げ出した。
するとタケミカヅチは、逃げるタケミナカタを追いかけて行ってしまった。
・・・稲佐の浜には、わたしとアメノトリフネが残されてしまった・・・
後から聞いた話によると、この時タケミナカタは信濃の国まで逃げていった。しかし諏訪湖でタケミカヅチに追いつかれ、とどめを刺されるところだったらしい。
「待ってくれ!殺さないでくれ!俺はこの地にとどまり、他の場所にはいかない!
父オオクニヌシと兄コトシロヌシの意にも背かない、この日本の国は天つ神に献上する!」
と言って許しを請い、タケミカヅチはとどめを刺すのは思いとどまったという。
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☆諏訪大社
こうしてタケミナカタは諏訪の地にとどまることになりました。今では諏訪大社として信仰を集めています。
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