宮殿に帰ると、スサノオは広間にゴロンと横になるなり言った。
「オオアナムヂ!頭のシラミを取ってくれ!かゆくてたまらん」
オオアナムヂは「はい」とかしこまると、横になったスサノオの頭の後ろに膝まづいた。
そしてスサノオの長い髪の毛をかき分けると・・・
オオアナムヂの表情は凍り付いた。髪の毛の中にいたのはシラミではない・・・毒をもったムカデだった。
オオアナムヂが途方に暮れていると、そこにそっと近寄ってきたスセリヒメ、無言で二つの袋を差し出した。オオアナムヂが中を見ると、一つには椋の実が、もう一つには赤土が入っている。
それを見てひらめいたオオアナムヂは、椋の実を口に含むとがりがりとかみ砕き、それを赤土にまぜてペッと吐き出した。
その様子を見たスサノオは「ほう、俺の猛毒を持つムカデを口でかみつぶしているのか…なかなかやるな・・・」と思い込んでしまった。
スサノオはオアナムヂの持つ霊力に最初から気が付いていた。そしてオオアナムヂに数々の試練を与えてみるが、それもことごとく乗り越えてしまう。そう、オオアナムヂは周りの者、人や神だけでなく、うさぎやネズミなど動物までもをも味方にし、引き付けていくだけの力をもともと持っているのだ。
・・・統治者としては申し分ない。しかしそれだけでは足りない。世の中には統治者に従順なものだけではない。統治者に逆らい、反乱を企てるような輩もたくさん存在する。そんな奴らの上に立って初めて統治者と言えるのだ。
しかしその気概が今のオオアナムヂには無い・・・せめてこの俺に反抗できるだけの気概は持ってほしいのだが・・・
そんなことをスサノオは考えていた。そのうちスサノオは眠り込んでしまった。
・・・最も、このスサノオの心配は、まったく杞憂だったようだ。オオクニヌシはこの後、大胆な行動を起こすのだった。
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☆シラミ
古事記にもシラミ取りの話が出てくるぐらい、シラミは昔から身近で悩まされ続けてきた害虫だったんですね。「しらみつぶし」という言葉もあるくらいですから。
シラミ(虱)は体毛や衣服に張り付いて吸血する昆虫で、はげしいかゆみや湿疹をおこします。
日本では昭和20年代の戦後混乱期、劣悪な衛生環境や、海外から引き揚げ者・復員兵が大量に持ち込んだことにより国中に大流行しました。
進駐軍がDDT(有機塩素系殺虫剤)を大量に散布し、その後は衛生環境も改善され、ほぼ絶滅されました。昭和50年代にアタマジラミが小規模な流行をみたことはありましたが、現代の日本人にとってはほとんど無縁なものとなっています。