スサノオは大いびきをかいて眠り込んでしまった。
それを見たオオアナムヂは、よし、いまだ、と思った。そして部屋の隅にいたスセリヒメに目で合図した。一緒に行こう!・・と。
スセリヒメもオオアナムヂが意図するものを感じ取った。そしてオオアナムヂの目を見つめた。その目は、あなたについていきます、と力強く語っていた。
オオアナムヂは眠ったスサノオの髪をそっとほどき、いくつにも分けると何本もの柱に結びつけた。そしてスサノオの太刀、弓、琴を持ち出すと、広間の出入り口には500人がかりでも引けないような大岩を置き、スセリヒメを背負うとそっとスサノオの宮殿を抜けだした。
うまくいったようだった。その時、スセリヒメが抱えていることが木に触れた。
ぐわ~~ん
琴が大きな音を立てた。
スサノオの宮殿から聞こえていたいびきがピタッとやんだ。
次の瞬間、
がらがら、どっしゃーん!
大音響が響き、スサノオの宮殿が崩壊した。
琴の響きでオオナムチとスセリヒメが逃げ出したことを知ったスサノオは、髪の毛が柱に縛り付けられているとも知らずに起き上がった。柱が髪の毛で引っ張られてはずれ、宮殿が崩壊したのである。
うおおーーーーっ
スサノオの雄たけびが聞こえてくる。その雄たけびは山も川も揺らすようだ。何しろ、若い時分には泣き声で山野を枯らしたほどのスサノオの声である。
その腹の底まで響く、尋常ではない雄たけびにオオナムチは恐怖を感じ、逃げ足を速める。
スサノオは不器用な手で髪の毛に結ばれた柱をほどく。しかしその間にオオナムチとスセリヒメはどんどん遠くに逃げて行ってしまった。
やっと柱をほどいて追いかけてきたスサノオだったが、スサノオが追いつくと二人は根の国と現世の間にある坂を登り切っていた。根の国の王スサノオはこの坂を上ることはできない
ここにきて、スサノオの声が響いた。
「わっはっは!こいつは愉快だ!おーい、オオアナムヂ!もう追いかけぬから待て!」
その声にオオアナムヂは立ち止まり、振り向いた。
「オオアナムヂ!お前はこの国で数々の試練を受けて、今までにない力を持っているはずだ。その力と、お前が持つ太刀と弓があれば、お前の異母兄を追い払うことなどたやすいことだろう。お前はこれからオオクニヌシ(大国主命)と名乗るが良い。スセリを正妻にし、宇迦山のふもとに宮殿を立ててスセリと暮らせ!わかったか、この野郎!」
スサノオからその名をもらったオオアナムヂ改めオオクニヌシは、スサノオに一礼すると、黄泉の坂から現世に帰ってきた。
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☆オオアナムヂからオオクニヌシへ
オオアナムヂは根の国から帰ってきたとき、スサノオからオオクニヌシという名をもらいました。この後、その名にふさわしく日本の国の主としての活躍が始まります。