わたしはコトシロヌシのほうを振り向き、言った
「コトシロヌシ、お前はどう思う?」
・・・その時のコトシロヌシの顔・・・
完全に血の気が引き、青ざめ、ガタガタ震えていた。
無理もない、コトシロヌシは生来、臆病で気が弱い性格だった。
タケミカヅチの、剣の切っ先に座った信じられない姿、恐ろしい声での恫喝に、言いようのない恐怖を感じたに違いない。
しかしその頭脳は優秀で、わたしは彼を文官として重用していたのだ。
そしてタケミカヅチに脅され恐怖に震える真っただ中でも、彼は冷静に状況を分析していた。
コトシロヌシは口を開いた。
「父上・・・もしここで要求を拒否すれば、高天原との全面戦争は避けられないでしょう。そうなると、戦いに勝とうが負けようが、日本の民は大きな被害をこうむります。
とはいえ、どこかの得体のしれない神が攻めてきたのならば、我々は全力を挙げて戦わなければなりません。
しかし相手は、高天原のアマテラス大御神です。我々の祖先である、スサノオの大神とは姉弟であり、イザナギの大神の子であります。
つまり祖先は同じイザナギの大神です。イザナギの大神と言えば、この日本をお産みになった神様です。
そのようなアマテラス大御神であれば、日本を支配しても、父上と同じく慈愛を持って統治され、民は幸せな生活を送ることができるでしょう。
戦争で民が悲惨な目に合うよりもよっぽどいい。
日本の国を造り上げた父上にとっては無念でしょうが・・・
ここは相手の要求を呑んで、日本の国はアマテラス大御神に譲渡するのが得策かと思われます」
・・・コトシロヌシ・・・
わたしは、よくぞ言ってくれた、という思いだった。
実はわたしも内心では、同じように考えていたのである。
「日本の国は、天つ神に献上いたします。」
と言った。
そして何かのまじないだろうか、普通の拍手とは逆に手の甲をパチンと合わせると、そのまま後ろに下がって草むらの中に隠れてしまった。
次>>> タケミナカタの答え - 古事記の話
コトシロヌシはよく美保岬に釣りにきていたそうです。拙ブログでは省略しましたが、古事記ではこの時も美保岬で釣りをしているときにアメノトリフネに呼び出され、稲佐の浜に連れてこられたことになっています。
コトシロヌシはえびす様としても知られ、コトシロヌシを祀る美保岬の美保神社は全国のコトシロヌシ系えびす様を祀る神社の総本社となっています
≪リンク≫
小説古事記
古事記ゆかりの地を訪ねて
カリバ旅行記
温泉の話
駅弁の話
鉄道唱歌の話