古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

穴の底で

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わたしは穴の底に落ちた。思いっきり身体を打ったが、地を這ってきた猛火の壁からは逃れることができた。

 

「うう・・・痛てて・・・」

私はやっとのことで起き上がった。穴の上のほうはまだめらめらと火が燃えている。

 

その時、足元に何か動く気配を感じた・・見ると、さっきのねずみだ。

「やあ、ネズミくん、ありがとう。きみが逃げ場を教えてくれなかったら、私は焼け死んでたよ・・・

ん?なんだい、それは?」

 

ねずみは一本の棒のようなものをくわえていた。それをわたしに差し出す。

 

それは・・・スサノオさまが放った鳴鏑の矢だった。

 

「ああ、ねずみくん、ありがとう。わたしはこれを探していたんだよ、よくわかったね・・・ん?矢羽はどうしたかな?」

それは確かに鳴鏑の矢だったが、矢羽が無くなっていたのだ。

 

・・・矢羽が無いこの鏑矢を、スサノオさまが認めて下さるか・・・私の心に不安が覆いかぶさろうとしていた・・・

 

すると、ネズミが言った

「すいません、矢羽はわたしの子供がかじってしまったんです・・わたしの子供はいたずら者で困ります」

 

それを聞いたわたしは、どこかほっこりとしたものを感じた・・・ははは、スサノオさまが認めようが認めまいが、そんなことどうだっていいじゃないか・・・

 

私は笑顔を見せながらネズミに行った

「ははは、子供はどこでも似たようなもんさ!とにかくありがとう!」

 

まだ穴の上では火がめらめらと燃えている・・・仕方ない。

わたしは火が治まるまでこの穴の中で過ごすことに決めた。

火は夜通し野原で燃え続けていた。

 

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