神武天皇の自伝 28
我が皇軍は、大和へ進軍していく。もうすぐ宿敵ナガスネビコの本拠地だ。
時はすでに12月、冷たい風が吹いていた。
やがて遠くに軍勢が見えた・・・手ぐすね引いて待ち構えるナガスネビコの軍だ。
我が皇軍はそのまま進軍していく。
そして、いよいよ互いの矢が届く距離まで接近した。
よし、いくぞ・・・
びゅわ~~ん
わたしは空に向けて鏑矢(かぶらや)を射った。戦闘開始の合図である。
わが軍から敵軍に向かって一斉に矢が放たれた。敵軍からも矢が雨あられと飛んでくる。
矢に守られながら歩兵は吶喊攻撃を繰り返す。
敵味方入り混じっての白兵戦は、なかなか決着がつかなかった。
戦いが長引いてきた・・・わたしは少しずつ、焦り始めていた。その時だった。
それまで穏やかだった天候が急変した。厚く黒い雲が空を覆ってきたかと思うと、風が強くなり、みぞれ交じりの冷たい雨が降り始めたのだ。
「なんだ!あれは!!」
兵士たちが口々に叫ぶ。わたしは兵士たちが見上げた方向に顔を上げた。すると・・・
空の一点に、金色のまばゆい光が現れたのだ!それはだんだん大きく・・・いや、近づいてくる!
兵士たちは戸惑い、恐れおののいている。しかし、わたしにはその光が神々しいものに見えた・・・これは・・・
妙な気持ちだが、これは吉兆だ・・・わたしは確信した。この光は高天原の神々が我々を助けてくださるのだと・・・
その光はだんだん近づいてきて、その形が分かるようになった・・・鵄(とび)だ!金色の鵄が旋回しながら我が皇軍のほうに近づいてくる・・・
そしてその金色の輝く鵄は、わたしのすぐそばまでやってきた。そしてその鵄は、わたしが持つ長弓の先にとまったのだ!
そして鵄は、ひときわまばゆく輝いた!その様、まさに雷光のようだった。
そして、これを見たナガスネビコ軍の兵士は・・・
みな、戦意を喪失してしまったのだ。
敵兵は武器を地面に置くと、皆膝まづいて頭を下げた。降伏の意思を示したのである。
戦いは我が皇軍の勝利だった。
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☆金鵄
「いらすとや」から拾ってきた神武天皇のイラスト。弓の先にも金鵄(きんし)がとまっています。
この金鵄、古事記には出てこず、日本書紀にしか記載がありません。というか、古事記にはイツセが討たれてなくなるまでの描写は詳しいのに、その仇である宿敵ナガスネビコとの戦いの描写はほとんどありません。
古事記では前回紹介した「撃ちてし止まん」の歌を記述した後、いつの間にか戦いが終わっているのです。
なんでこんな書き方になっているのか、わかりません。
「金鵄」は「八咫烏」と混同されることもよくあります。一説にはその正体は八咫烏と同じ建角身命(たけつぬみのみこと)の化身だとも云われています。
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