古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

撃ちてし止まん

神武天皇の自伝 27

 

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磯城の地でエシキを討ち、我が皇軍は大和の平原に進軍していった。

いよいよここは宿敵、ナガスネビコの本拠地である。

 

斥候から帰ってきた兵士の話によると、すでにナガスネビコは、皇軍が東から攻めてくるという情報を得ているらしい。そして迎え撃つべく大軍を用意して待ち構えているということである。

 

もう、今度はこれまで行ってきたような策略は通じないだろう。正面から戦うしかない。

しかし、負けるわけにはいかない。白肩の津で、ナガスネヒコの矢に倒れた兄イツセのためにも・・・

 

それに今度は白肩の津での戦いと違って、こちらも準備万端整えている。

 

わたしは将兵たちを集め、彼らの前で歌を詠んだ。

 

  粟の畑に 生えている

  臭く醜い ニラの茎

  根茎まとめて 引っこ抜け

  我らが勇者 久米の子は

  敵兵まとめて 引っこ抜け

  撃ちてし止まん

 

  庭の垣根に 生えている

  ぴりりと辛い 山椒は

  その味口に 忘れない

  我らが勇者 久米の子は

  イツセの未練 忘れない

  撃ちてし止まん

 

  どんなに強い 敵さえも

  恐れることは ありえない

  伊勢の海で 這いまわる

  しじみのように わが兵は

  這って這って 追い詰める

  撃ちてし止まん

 

これを聞いた将兵たちは「うぉー!」と鬨の声を上げる。

将兵たちの士気も、イツセの弔い合戦だとばかりに高い。

 

わたしは軍を率いて、ナガスネビコが待ち構える大和に向かっていった。

 

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☆撃ちてし止まん

 

「敵を撃ったら戦いを止めよう」ということで、すなわち勝つまでは戦いを止めない、という意味です。

これがはるかに時を経て無謀な対米戦争のスローガンに使われるとは、神武天皇記紀の編者も、思ってもいなかったでしょうね。


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