その時だった
「あ、いけない」
イザナギの目に留まったのは、必死の形相でかけてくる、イザナミの姿だった。鬼女も雷神も追いつけなかったので、自ら追ってきたのである。
そばには千人がかりでも引けないような大岩があった。イザナギは、大岩に両腕をかけると、渾身の力を込めて岩を押した。そして黄泉比良坂の道をふさいでしまった。もうこれでは通れない。
岩の向こうできりきり音がする。イザナミが岩を爪でひっかいているのだろうか。
「ああ、愛するイザナギ!岩を開けてください。ここを通してださい!」
イザナミの声が聞こえる。
しかし、イザナギは悲しそうに首を振る。
「だめだ、愛するイザナミ・・・もう君は死者なんだ・・・通すわけにはいかない。ぼくはこの日本の神なんだ。君は黄泉の神なんだ・・・わかるよね」
しばらく岩を掻くきりきり言う音と、すすり泣く声が聞こえていた。
不意にイザナミが叫ぶ。
「ああ、愛するイザナギ!こんな仕打ちをするならば、わたしは日本の民を一日1000人、この死者の国に迎え入れてやる!」
その声を聴いたイザナギは言った。
「愛するイザナミ、さようなら」
きびすを返し、離れていく。岩をかく音も、イザナミの泣く声もやがて聞こえなくなった。
イザナギは振り向いて静かに、しかし力強く言った。
「ならば日本に一日1500人の赤子を生んで見せる」
イザナミに聞こえないところで言ったのは、かつて愛しあったイザナミへの、せめてもの気遣いであった。
現世と死後の世界とは、こうして大岩でふさがれて以来、自由に行き来することはできなくなった。
そして今に至るまで一日1500人生まれ、1000人の人が亡くなるようになったという。
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☆日本の人口
こうしてイザナミ・イザナギの言霊により日本人の生死が運命づけられ、日本の人口は時がたつにつれ増えていくことになりました。
しかし、2010年をピークに人口は減少に転じ、少子高齢社会となった今、神話とは逆の方向に進んでいます。
☆黄泉比良坂
古事記ではこの話の最後は「黄泉比良坂とは今の出雲国の伊賦夜坂である」と締めくくられています。
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