ヤマトタケルの自伝 16
翌朝、わたしは駿河国造に案内され、荒々しく乱暴な一団が住んでいるという野原に来ていた。
そこには一面の枯れ草がはるか先の地平線まで広がっていた。
「ヤマトタケルさま、この先の岩山に、その一団は砦を築いて陣取っているのです」
「よし、見に行ってみよう。場合によってはそなたの軍勢を借りるかもしれぬぞ!」
「かしこまりました。お気をつけて」
そして、ここまでついてきたオトタチバナヒメに言った。
「オトタチバナヒメ、お前はここで待っておれ」
「でも・・・ヤマトタケルさま、従者もつけずにおひとりで・・・大丈夫ですか?」
「なに、偵察してくるだけだ、心配ない」
こうしてわたしは単身、腰まで茂る枯草を分けながら進んでいた。どのくらい進んだろうか・・・
なにやら頭上を飛んで行くものがあった。わたしは見上げてそれを見た・・・
燃えていた!火矢だ!
一本だけではなかった!何本も飛んできては、わたしの周りに落ちていったのだ!
野原は枯れ草が茂っている・・・
火はたちまち枯草に移り、めらめらと燃え出した・・・無数の小さな火は、たちまちのうちにつながって、大きな炎となり、わたしを取り囲む!!
「むむ・・・これは・・・」
わたしは思わず後ろを振り返った。すると、そこには・・・
炎の向こうに、にやにや笑いながら立っている国造がいた!
わきには弓を持った兵士を従えていた・・・これは・・・
・・・謀られたか・・・
国造のやつ、表では従順するふりをしながら、裏では朝廷に反抗する勢力とつながって謀反を起こす魂胆に違いない!
そして反乱の手始めとして、このわたしを殺そうとしているのか・・・
・・・オトタチバナヒメはどうした・・・
「オトタチバナヒメー!!」
わたしは叫んだ。しかし返事はない・・・さては国造に捕らえられたか・・・
しかし、詮索している余裕はなかった。燃え盛る炎は、わたしのすぐそばまで迫ってきていた。逃げ場はない。
・・・どうすれば・・・
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☆日本書紀では
日本書記でもほぼ同じような話の流れとなっています。
ただ古事記では国造から「ちはやぶる神」(荒々しく乱暴な神)がいると聞いて討伐しようと野に入ったのに対し、日本書紀では「大きな鹿がいます。狩りをしてみませんか」と進言されて野に入ったことになっています。
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