神武天皇の自伝 22
わたしはミチノオミとオオクメを伴ってエウカシのもとへ出向いて行った。
エウカシは新しく造った宮の前で待っていた。わたしを見ると、満面の笑みで出迎える。
「ようこそ、天の御子様、よくいらっしゃいました。さあ、宮の中では宴の準備ができて居ります。さあ、どうぞ、お入りくださいませ」
エウカシはわたしを手招きする。
しかし、すでに彼の弟オトウカシの進言により、その偽りの笑顔の裏に隠されたたくらみはすでに分かっていた。
わたしはそれ以上、前には出なかった。
変わって出てきたのは、護衛についてきたミチノオミとオオクメだった。
二人は剣を抜き、エウカシに突き付けて言った。
「お前が作った宮だ。まずお前が先に中に入り、天の御子に仕えるさまを見せてみよ!」
その時のエウカシの顔・・・みるみる血の気が引いて、真っ青になってしまった。まさか自分の策略がばれているとは、夢にも思っていなかっただろう。
わたしは無表情で彼を見つめていた。
その間にも剣を突き付けたミチノオミとオオクメは、じりり、じりりと前に出ていく。逃げ場はない。
もし逃げようとしたら、それより早く二人の剣はエウカシを切り裂いてしまうだろう。
エウカシは後ずさりするしかなかった。
エウカシは迫ってくる二人の剣を避けようと、少しずつ後ずさりしていた。しかし、その先には・・・・
バタン!!
大音響が響いた。それが最後だった。
ぎゃっ!・・・
一瞬、エウカシの悲鳴が響いたような気がした・・・次の瞬間、静寂が覆っていた。
エウカシは自分が仕掛けた罠にはまり、板に挟まりつぶされて死んでしまったのである。あたり一面にエウカシの血が飛び散った。
ミチノオミとオオクメは、その死体を引きずり出し、さらに剣でバラバラに斬り刻んで打ち捨てたのだった。
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☆宇陀の血原
古事記には「その後この地を宇陀の血原というようになった」と記述されています。
奈良県宇陀市の宇賀神社はエウカシ・オトウカシの兄弟を祀ったといわれ、神社の裏を流れる川は血原川というそうです。
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