神武天皇の自伝 番外編 2 (カムヤイミミの自伝)
その当時、わたしは兄ヒコヤイ、弟カムヌナカワとともに大和の平原の一角に宮を構えて暮らしていた。
その時、母イスケヨリヒメが侍女を連れて我々3兄弟の宮を訪ねてきたのである。
母は大変やつれて見えた・・・それはそうだろう、タギシミミと無理やり結婚させられた上に、タギシミミは大変横暴でちょっとしたことでも怒鳴り、手を上げるという。
優しかった父イワレと長年一緒に暮らしてきた母にとって、その辛さは大変なものだろう。かといって、まだ若かったわたしたちにできることは何もなかった。
一緒についてきている侍女にしても、実はタギシミミの息がかかった配下の女である。母がおかしな行動をしないように見張っているのだろう。
わたしたち3兄弟と会った母は、目に涙を浮かべながら歌を詠んだのである。
狭井川に 雲立ち上がり
畝火山 木の葉は騒ぎ
風が吹き来る
畝火山 昼に黒雲
夕方に 風吹きすさぶ
木の葉が騒ぐ
それを聞いたわたしはピンとくるものがあった・・・思わず兄と弟の顔を見ていた。兄も弟もわたしと同じことを察したのだろう、緊張した顔つきで互いの顔を見合わせた。
狭井川と言えば母イスケヨリヒメが生まれたところである。また畝火山のふもとには今もタギシミミがいる白檮原宮(かしはらのみや)がある。
そこから雲が沸き上がり、風が吹いてこちらのほうに来ているということは・・・
つまりタギシミミが我々3兄弟を亡き者にして、自分が次の天皇(すめらみこと)になろうとしていると、母は伝えたかったのだ・・・
母には侍女とは名ばかりのタギシミミの息がかかった女が張り付いており、うかつなことは言えない。だから歌で我々に伝えたのだろう。
幸い侍女は歌の意味するところは気が付いていないようだった。
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