古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

皇后イスケヨリヒメ

神武天皇の自伝 35

 

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オオクメは7人の娘のもとにゆっくり近寄っていった。わたしは遠目にその様子を見ていた。

 

オオクメは根っからの武人である。もともと恐ろしげな顔の上にその顔面には刺青を入れ、目の周りにはまるで相手を脅すように真っ黒な墨を入れてある。その顔は一目見ると震えあがるほどだ。

 

果たして、オオクメが近寄ると、娘たちは立ち止まって震えだし・・・そしてもう少し近寄ったところで、娘たちは背中を見せて逃げ出してしまった・・・

無理もない。娘たちには思いっきり不審者に見えてしまったのだろう・・・

 

・・・しかし・・・

 

ひとりだけ、逃げ出さない娘がいた。先頭に立っていたイスケヨリヒメだ。

オオクメのあの姿を見ても平然としているとは・・・やっぱり神の御子というのは本当らしい。

 

オオクメとイスケヨリヒメは、しばらくの間何か話をしていた。話の内容はここまでは聞こえてこない。

と、思うと、オオクメはイスケヨリヒメを連れて戻ってきた。

 

オオクメはわたしに向かって

「二ニギさま、お后様のイスケヨリヒメさまでございます」

と言った。

 

「おう、そうか!オオクメ、よくやった!

イスケヨリヒメ、天皇(すめらみこと)のイワレだ。よろしく頼む」

 

イスケヨリヒメはそっとわたしに頭を下げた。

 

後から聞いたところによると・・・

 

オオクメはイスケヨリヒメに会えたはいいが、緊張して何を言っていったらいいかわからなかったらしい。幾たびもの死線を潜り抜けてきた百戦錬磨の男が、一人の娘を前に緊張してしまうというのもなんだが・・・

この時、先に口を開いたのはイスケヨリヒメのほうだった。歌を詠んだのである。

 

  燕でも 千鳥でもない 鳩でない

  なのにあなたの 大きな目はなぜ

 

この歌を聞いたオオクメは

 

  磨かれた 珠のごとくに 美しい

  光り輝く あなたを見るため 

 

と、返したそうだ。

こうして打ち解けたオオクメは、わたしの后にならないかと話をして、イスケヨリヒメは「イワレさまにお仕えいたします」と答えたという。

 

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神武天皇の自伝 目次

 

 

☆イスケヨリヒメ

 

古事記での本名は「比賣多多良伊須氣余理比賣」(ひめたたらいすけよりひめ)。

これは元は「冨登多多良伊須須岐比賣命」(ほとたたらいすすきひめのみこと)という名だったが、「ホト」というのを嫌って改名したそうです。

「ホト」というのは女陰のこと・・・・まあ、生まれがアレにしても、そんな名をつける親もどうかと・・・

 

なお、日本書紀では「媛蹈韛五十鈴媛命」(ひめたたらいすずひめのみこと)となっています。日本書紀が正史とされていますので、初代の皇后も公式には媛蹈韛五十鈴媛命とされています。


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