神武天皇の自伝 33
日向からナガスネビコを破って大和に入ったわたしは、畝火(うねび)に白檮原宮(かしわらのみや)を造営し天皇(すめらみこと)に即位した。
さて、即位後のあわただしさも落ち着いてきたある日、わたしは后となる娘を探していた。
もともと日向に居たときに結婚し子も生まれていたが、その妻子は日向に残していた。しかし今後の統治をより確実なものとするためにも、この大和の地から后を迎え入れたかったのである。
そんな折、わたしを日向からずっと護衛してきた側近のオオクメが、わたしのもとに来て言った。
「イワレさま、神の御子と言われる美しい娘がこの大和の地に居るそうです。名はイスケヨリヒメと言います」
「ほう・・・神の御子か・・・その娘は、なぜそういわれているのだ?」
「はい、それはその娘の生い立ちに絡んでいるそうです」
オオクメは一息ついて話を続ける。
「その娘の母はセヤダタラヒメというそうですが、これが絶世の美女だと大評判だったそうです。
その話を聞いた三輪のオオモノヌシの大神は、セヤダタラヒメの屋敷の便所に隠れました。そして彼女がくそをしていた時に丹塗りの赤い矢に化け、下から彼女をついたそうです」
「・・・・・」
「びっくりした彼女は慌てて矢をつかみ、部屋まで走ってきました。そこで矢は立派な青年の姿に変わったということです。そしてセヤダタラヒメとオオモノヌシの間に生まれた子がイスケヨリヒメだということです。」
「・・・う・・・なんか、すごい話だな・・・」
わたしは苦虫を噛み潰したような顔でオオクメの話を聞いていた。何やってんだ、オオモノヌシの大神は・・・
・・・便所で娘を襲うなんて・・・普通、神様のやることか・・・
まあしかし、とにかくわたしはその、イスケヨリヒメにあってみることにした。
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☆オオモノヌシ
オオモノヌシ(大物主神)はオオクニヌシが大和に祀りましたが、この時は名前は明かされていません。ここで初めてその名が明かされました。
オオモノヌシはオオクニヌシが祀った大和の三輪神社のほか、讃岐の金刀比羅宮の御祭神もオオモノヌシです。
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