神武天皇の自伝 12
兄イツセを亡くしたわたしは、竃山にイツセを葬った後、軍勢を率いて港に停泊している艦船に戻っていた。
そこへ、見回りの兵士が駆けつけてきた。
「イワレさま!また軍勢が攻めてきてます!」
「なんだと?!」
一体、どこの軍が攻めてきているのだ・・・従者や兵士たちに動揺が走る。
続けて斥候に出ていた兵士から報告が入ってきた。
「攻めてきているのは、名草村のナグサトベと思われます」
「ナグサトベ、だと?」
「はい、名草村を束ねている女です!どうやらナガスネビコの息がかかっていて、ひと手柄立てようと襲ってきたものと思われます」
「イワレさま・・・」
従者らは不安な顔で私を見つめる。
兄を亡くしたばかりのわたしも不安は同じだった。しかしそんな不安な心を部下たちに見せるわけにはいかない。
幸い、ナガスネビコの奇襲を教訓にして、いつ敵が襲ってきてもいいよう軍備は整えてある。
わたしは勇気を奮い立たせて言った。
「大丈夫だ!!今度は万全の戦闘態勢を整えている!襲ってきた族を返り討ちにしてやろうじゃないか!!」
わたしの力強い声を聴いた兵士らは「おうーーっ!!」と鬨の声を上げた。
おりしも敵軍の姿が見えた。わたしは空に向かって鏑矢を討つ。それを合図に一斉に矢が放たれ、歩兵が斬り込んでいった。
勝負は一方的だった。緒戦を制したわが軍の勝利に終わった。
戦いが終わった名草村には、敵兵士の遺体が所狭しと転がっていた。そして、その中に・・・遺体となった兵士に守られるようにして・・・
自害している、ナグサトベの遺体があったのである。
ナグサトベ・・・女でありながら軍勢を束ね、自ら死を選ぶとは・・大した奴だ。死んだお前には何の恨みもない。しかし、皇軍に矢を向けた罪は重い・・・
今後の見せしめのためにも、遺体といえどそれなりの償いはしてもらうぞ!
わたしは剣を振り上げると、ナグサトベの遺体を、頭と胴と脚と、三つに切り離したのだ。
その遺体はそのまま打ち捨てて置いた。
そしてわたしは従者兵士らを引き連れて艦隊に戻っていったのだった。
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☆ナグサトベ
この話は古事記にはありません。日本書紀に「軍は名草邑(なぐさむら)に至り、ナグサトベ(名草戸畔)を誅殺した」という記述があります。
頭・同・脚の三つに切り離されたというのは地元に伝わる伝承のようです。村人は遺体を丁重に埋葬しました。頭を葬ったのが宇賀部神社、胴が杉尾神社、脚が千種神社だといわれています。
また、名草神社ではナグサヒメと弟のナグサヒコが祀られています。両神はナグサトベの祖先とも、ナグサヒメがナグサトベのことだともいわれています。
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