神武天皇の自伝 7
我々の艦隊は安芸の国を出港し、瀬戸内海を西に進んでいた。
そして吉備の国に至り、ここに上陸した。
われわれはここでも歓迎を受け、吉備の国人が用意してくれた高島宮に滞在することになった。
我々が宮に入った翌日、この地の長老が我々のもとを訪ねてきて歓迎の意を表してくれた。その夜は歓迎の宴を開いてくれ、我々一行はいい気持ちで盛り上がっていた。
そんな中、兄イツセが言った
「これまで航海は順調に進んできたが、これからどうなるだろうな・・・うまくいくといいが・・」
これに答えてこの地の長老が言う
「では、これからの旅の安全に備えて占ってみてはいかがでしょうか」
「ほう、占いか・・・どうすればいいのだ」
「はい、この宮の近くに神の世界に通じる霊峰があります。そこで神に祈ると、神からの神託が聞こえるといいます」
「そうか・・・イワレ!明日にでも行ってみるか」
「そうですね・・・」
兄イツセはここまで気丈に大船団を率いてきたが、やはり心のどこかに不安があったのだろう・・・そんな気持ちが占いに頼ってみようという気を起させたのか・・
まあいい、良い結果が出れば良し、悪い結果が出てもそんなものに惑わされるイツセではないだろう・・・
翌朝、わたしとイツセは数人の従者だけ連れて、長老が教えてくれた霊峰に登っていった。途中、湧いていた出水で神に備える水を汲んだ。そして山頂でその水を神に備え、これからの航海を占った。
すると、わたしとイツセの脳内に、天からの声が響いてきたのである。
『そなたたちの目的は必ず達せられる。しかし、それには困難と不幸が伴うであろう・・・』
わたしはびっくりしてイツセに行った
「兄上!聞こえましたか?今の声!」
「おう、確かに聞こえたぞ、イワレ!でも、不幸と困難って、なんだ?!」
「さあ、何のことでしょう・・・おい、お前たちはどう思う!?」
わたしは一緒に登ってきた従者に聞いてみた。しかし・・・
わたしとイツセが聞いたその声を、従者たちは誰一人、聞こえてなかったのだ!!
イツセが言った
「とすると、あの声は、わたしとイワレの兄弟にしか聞こえなかったのか・・・天つ神がその子孫であるわたしたちだけに神託を伝えたのかもな」
「しかし兄上・・・困難と不幸、って何でしょう・・・」
「何でもいいさ、とにかく目的が達成されることはわかったんだ!これから先に進んでいくだけさ!!」
私は何か腑に落ちないものを感じたが・・・まあでもイツセは前向きに考えているのだから、いいだろう。
わたしとしては、これからも兄イツセについていくだけだった。
吉備の高島宮には8年間滞在し、その間補給を整え、周辺部族も我々の下に従えた。
そして我々はさらに西を目指して出港していくのだった。
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☆高島宮
吉備はのちに律令制により備前・備中・備後の三か国に分割されました。その三か国に高島宮と伝わる地は複数存在しています。
拙ブログの話は備中笠岡市高島に伝わる伝承をもとに創作しました。
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