オモイカネの自伝 15
祭りは最高潮に達しようとしていた時でした。
・・・そこに神々を貫くように、一筋の光が差しました!・・・
天岩屋の岩戸がわずかに細く開き、そこから一筋の光が差しているのです。
岩屋の外のこの騒ぎに、アマテラス大御神がお気づきになり、何事かと岩戸を細く開けて外の様子をうかがっているのでしょう・・・
うまくいっています。すべてわたくしが考えた台本通りに進んでいます。
あとすこしです!
光が差しても神々は気づかないふりをし、ウズメも何もないかのように踊り続けました。
その時です!
「ウズメ・・・」
アマテラス大御神の声がしました。踊っているウズメを見つけ、声をかけたのです。ウズメは踊りを中断して答えました。
「あ、アマテラスさま!お久しぶりです!」
「ウズメ、これはどういうことですか?わたしがここに籠ってからは高天原も地上の日本も、みんな暗闇のはず。
なのにどうしてウズメはこうやって踊って、神々は楽しそうに宴会を開いているのですか・・」
ウズメが答えて言います。
「はい、たしかにアマテラスさまがお隠れになってから世の中真っ暗になり、わたしたちはどうしようかと悲観いたしました。
しかし、遠い外国から、アマテラスさまにも増して尊い神様がおいでになったのです。
この神様のお力で高天原も日本も救われます。なので、こうやって新しい神様をお迎えするお祭りを開いているのです。」
「え・・・わたしより・・・そんな神がいるの?・・・」
その問いに答たのは、コヤネとフトダマでした。
「はい、こちらにいらっしゃいます」
二神はそういいながら、岩屋に近づいていきました。二神の手には、先に準備した、勾玉と鏡が取り付けられたサカキを持っています。
岩屋の隙間から漏れる光は勾玉に乱反射し、辺りは昼間のように明るくなりました。鏡には岩屋の隙間からのぞく、アマテラス大御神のお顔が映っています。
そのご自身のお顔を、ウズメが言った「外国から来た尊い神」だと勘違いなされたアマテラス大御神は、その正体をご自身で確かめようとなさったのでしょう。岩戸を開き、身を乗り出されました。
よし、今だ!!
わたくしは岩戸の陰に隠れていたタヂカラオに合図を送りました・・・いや、送るまでもありませんでした。
タヂカラオは合図を待つまでもなく飛び出し、岩戸に手をかけたかと思うと、遠くに投飛ばしてしまいました。そしてアマテラス大御神の手を取ると、広場の真ん中に引き出してきました。
その直後にフトダマが飛び出し、岩屋の前に注連縄を張りました。これでもう、岩屋の中に戻ることはできません。
フトダマは「もう、この中におはいりになってはなりませんぞ!」と、アマテラス大御神に向かって言いました。
やった!!
作戦を考えたわたくしもびっくりするくらい、うまくいきました。
アマテラス大御神は最初訳が分からず呆然としていたご様子でしたが、だんだん状況を理解してきたようでした。
わたくしはアマテラス大御神に向かって言いました。
「アマテラスさま、お帰りなさいませ。われわれ神々一同、みなお待ち申し上げておりました」
それをお聞きになったアマテラス大御神、感極まったご様子でした。
「オモイカネ・・・みんな・・・」
目に涙を一杯浮かべて、それ以上は言えませんでした。
その時・・・
「アマテラス大御神、万歳~~!」
それまで黙って事の推移を見守っていた八百万の神々から声が上がり、拍手が沸き起こりました。
割れんばかりの拍手はいつまでも続いていたのでありました。
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☆コヤネ
天岩屋の神話において神官的な役割を持つのがフトダマとコヤネです。そしてその子孫も朝廷内で祭祀をつかさどってきました。
コヤネの子孫は中臣氏(なかとみし)となりました。この一族から出た中臣鎌足は大化の改新において中心的な役割を果たし、天智天皇から藤原姓を賜りました。以後、藤原氏は幕末に至るまで朝廷内で権力をふるいました。
コヤネは藤原氏の祖先神として大阪府東大阪市の枚方神社や、奈良県奈良市の春日大社をはじめ全国の春日神社で祀られています
☆フトダマ
一方、フトダマの子孫は忌部氏(いみべし)となりました。奈良県橿原市の天太玉神社では忌部氏の氏神として信仰を集めてきました。
平安時代に忌部広成が書いた「古語拾遺」は、古事記・日本書紀とは違った、忌部氏の視点から見た日本の歴史が記載されています。
古語拾遺によると、フトダマの孫が阿波国(徳島県)を開拓し、さらに東に移って現在の房総半島に移住しました。阿波から来たのでその地を「安房」というようになったそうです。
wikipedia 大麻比古神社
wikipedia 安房神社
その名の通り力持ちの神様です。タヂカラオが投げとばした岩戸が落ちたのが長野県戸隠山だそうです。
その後は天孫降臨の際ニニギに随伴して降臨し、伊勢の佐那々県(さなながた)に鎮座されました。三重県多気郡多気町の佐那神社とされています。
≪リンク≫
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古事記ゆかりの地を訪ねて
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