ニニギの自伝 15
さて、巡幸から高千穂の宮に戻って数か月。その間、わたしは留守中に溜まった政務に忙殺されていた。
しかしそれもめどがついたので、わたしは仮宮に残してきたコノハナサクヤヒメを高千穂宮に迎え入れることにした。
わたしは自ら、仮宮のほうへ迎えに出向いて行った。
そして仮宮に着いた。仮宮に入った私の前に、コノハナサクヤヒメが進み出て両手をつく。
「おう、コノハナサクヤヒメ、長いこと一人にして、すまなかったな。しかしそれも今日までだ。一緒に高千穂の宮に帰ろう」
「いえ、ニニギさまがご多忙なのは存じ上げております。わたくしのことを気にかけていただいて、まことにうれしゅうございます。
それで・・・あの・・・ニニギさま、ひとつ、ご報告したいことがございます」
「ん?なんだ、改まって、報告とは?」
「はい、わたくしは、ニニギさまの子を宿しております」
「なに・・・わたしの子?」
「さようでございます。天の神の御子でございます」
わたしの子を妊娠したというコノハナサクヤヒメ・・・
わたしの感情を覆ったのは、うれしさではなかった。不信感だった。
そう、わたしがコノハナサクヤヒメと交わったのは、一夜だけである。その一回だけで、どうして子供ができるというのだ?
言い放つようにわたしの口をついて出てきたのは
「おまえ、それは本当に、わたしの子か?!」
という言葉だった。
コノハナサクヤヒメは戸惑ったように答える。
「はい、さようでございますが・・・何か・・・」
「お前!何かもなにもないだろう!お前、たった一回交わっただけで妊娠したというのか!!」
「・・・そうおっしゃいましても・・・わたくしは・・・」
「うるさい!おまえ、さては、わたしの留守の間にこの土地の神と情を通じていたな!妊娠したのはそいつの子だろう!誰の子だ!」
「・・・・・・・」
コノハナサクヤヒメはしばらく黙ってうつむいていたが、すっと立ち上がった。その顔・・・今までのようなしおらしさは消えて、鬼気迫る表情をしている。
こんなコノハナサクヤヒメを見たのは初めてだ。
そしてコノハナサクヤヒメは、強い調子で言った
「ニニギさま!そこまでおっしゃるのですか!!
ならば証明して見せましょう!この子が天の神の御子であることを!!」
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