わたしはオオゲツヒメのもとに行き、食べ物を乞うた。
オオゲツヒメは「待ってなさい、美味しいもの作ってあげる」というと、神殿の奥に入っていった。
いったいどんなものを食べさせてくれるんだろう・・・空腹に耐えかねていたわたしは、オオゲツヒメを追いかけるように神殿の奥に入っていき、オオゲツヒメの様子をのぞき込んだ。
すると、そこには・・・
祭壇の前にオオゲツヒメがが立っていた・・・なにやら祭壇に向かってのりとを唱えていた。
と、その時・・・口の中から食べ物を吐き戻した・・・さらにしゃがんだかと思うと、尻からも食べ物を排きだしたのだ!
それを見ていたわたしは驚き、青ざめた・・・まさか、わたしにゲロやクソを食わせる気か!
青ざめたわたしだったが、次に頭に血が上った。このわたしに、そんな穢いものを食わせる気か!!
こうなると、わたしはもう見境つかなくなっていた。わたしはオオゲツヒメの前に飛び出していた。
「あら、スサノオ、どうしたの?もうすぐできるから、あっちで待ってらっしゃい」
しかし、そんなオオゲツヒメの言葉はもう耳に入らなかった。わたしは腰に差していた十束の剣を抜くと、オオゲツヒメを一刀両断に斬ってしまった!!
・・・オオゲツヒメは、叫ぶ間もなく絶命してしまった・・・
神殿を静寂が覆った・・・わたしはいったい、何をしたんだろう・・・
そこには少し冷静になったわたしがいた。血だらけのまま、まだ生血が滴る剣をもって・・・
オオゲツヒメは食物の神だ。食物の神であるオオゲツヒメの体から出た食べ物が、穢いはずあり得ない・・・
なのに・・・わたしはオオゲツヒメを殺してしまった・・・昔からわたしをかわいがってくれていた、オオゲツの姉さんを・・・
私は今まで感じたことのない、重々しい感情が湧き上がってくるのを感じた・・・これが「後悔」というものだろうか・・・
父イザナギに勘当を言い渡された時も、姉アマテラスが岩屋に閉じこもった時も、そんな感情はなかった・・・しかしオオゲツヒメを殺した今、その暗い感情が私を覆っているのがわかる・・・
いたたまれなくなったわたしは、駆け足でオオゲツヒメの神殿を飛び出し、行く当てもなく走っていた・・・
前<<< オオゲツヒメを訪ねる - 古事記の話
次>>> 箸が流れてきた - 古事記の話
☆その後
オオゲツヒメの遺体からは、蚕・稲・粟・小豆・麦・大豆が生じました。これを造化三神のカミムスビが手に取り種としました。
これ以降、日本の国でこれらの農産物が栽培されるようになりました。
≪リンク≫
小説古事記
古事記ゆかりの地を訪ねて
カリバ旅行記
温泉の話
駅弁の話
鉄道唱歌の話