ある日、わたしとスクナビコナは、伯耆の国に来ていた。そこにはスクナビコナと協力して切り開いた粟の畑が広がっていた。もうすぐ収穫の季節である。一年の苦労が報われ喜ぶ民の笑顔が浮かぶ。
わたしはスクナビコナに向かって言った
「スクナビコナ、どうだろう、我らが作り上げたこの国、よくなっていると言えるだろうか?」
その問いにスクナビコナは答える。
「そうですね・・・良くなっているところもありますし、まだまだのところもありますね・・」
これを聞いたわたしはスクナビコナに
「うむ、そうだな・・・国造りに終わりは無いな・・・スクナビコナ、これからも頼むぞ!いつまでも私の右腕であってくれ!」
と言った。
しかし、スクナビコナは何も答えず、黙っている。
「ん?どうしたのだ?スクナビコナ」
「・・・オオクニヌシさま・・・お別れです・・」
思いがけぬスクナビコナの答えにわたしは動揺した。
「・・・え・・・なんだって?」
「オオクニヌシさま、私が持っている知識は、もうすべて日本の民に伝えました。もうこの日本の国で、わたしがすることはないのです」
そういうと、スクナビコナはにわかに駆け出し、粟の畑の中に入っていった。と思うと、高く伸びた粟の茎に登る。そして粟の穂のてっぺんにぶら下がった。
スクナビコナの体重で粟が大きくしなる。
わたしはスクナビコナがとろうとしている行動を察した。そして思わず叫んだ。
「やめろ!スクナビコナ、行くんじゃない!」
しかし、次の瞬間だった・・・
大きくしなった粟の茎が、その反動でもとに跳ね返った。そしてその勢いで、スクナビコナは大きく跳ね飛ばされた。
「スクナビコナー!行くなーーー!!」
私は叫ぶ。
しかし、粟の茎に跳ね飛ばされたスクナビコナは、風に乗って遠く遠くへ飛んで行ってしまった。
・・・粟の畑を静寂が包んだ・・・わたしはそこに一人きりで立っていた・・・
スクナビコナが飛んで行った方向から風が吹いてきた。風に吹かれて粟の穂がさわさわとなった。
・・・スクナビコナが「オオクニヌシさまなら私がいなくても大丈夫ですよ」と、語りかるように・・・
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☆粟嶋神社
この話、古事記ではなく、日本書紀に別伝として収録してある「一書(あるふみ)」の中に出てきます。また、伯耆国風土記逸文にも少し触れられています。
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