わたしは木の国で、オオヤビコさまの屋敷を訪ねて行った。オオヤビコさまは家屋の神で、木の神でもある。
オオヤビコさまの屋敷に着くと、わたしは事情を話した。
オオヤビコさまは
「そういうことか、安心するがよい。この木の国までは兄君たちも追ってはこんじゃろう」
と、快くわたしを迎え入れてくれた。
こうしてわたしはオオヤビコ様の世話になって、時がたった。そんなある日のことだった。わたしとオオヤビコさまのふたりで屋敷の広間にいたときのことだった。
使いに出ていたオオヤビコの屋敷の下男が、血相変えて飛び込んできたのだ。
「大変です!弓矢で武装した集団がこの屋敷に向かっています」
「なに?本当か?またなぜ一体・・?」
「それが、こちらの・・・」
下男はわたしの方をちらっと振り向くと、オオヤビコさまに向き直り、続けて言った
「お客人のオオナムヂさまを狙っているようなのです。国境の関守から聞いた話です、間違いありません!」
「そうか・・異母兄たちが手を回したのか・・まさかここまで追ってくるとは・・」
そうこうしているうちに、表が騒々しくなってきた。早くも出雲から来た集団が屋敷を取り囲んでいるようだ・・
「オオヤビコさま・・大丈夫でしょうか?」
わたしは不安になって問いかけた。しかしオオヤビコは自信に満ちた声で答える。
「なにも心配ない、安心しろ!」
そして下男たちに命令を出す。
「雨戸を閉めろ!!」
すぐさま戸は硬く閉められ、屋敷の中は薄暗くなった。
しかし次の瞬間、戸はごとごと音を立てて震えだす。集団が一斉に矢を射かけたらしい。
そして戸外から大きな声が響き渡る
「オオヤビコさま!直ちにオオナムヂをお引渡しください!さもなくば我々は総攻撃をかけて、踏み込んでいかなければなりません!」
わたしは覚悟を決めて言った
「オオヤビコさま、これ以上迷惑はかけられません。お世話になりました」
こう言ってわたしが表に出ようとした時だった。
「待て、オオナムヂ!お前はこのまま死んではならん!お前はこの日本を背負っていかねばならない神なのだ!」
オオヤビコさまが言ったこの言葉、私には理解できなかった。
「え?オオヤビコさま、それはどういう意味ですか?・・・」
「今にわかる!それよりお前は根の国のスサノオの大神のもとに行くがよい!スサノオの大神ならきっと良いように取り計らってくれるだろう。
裏庭に生えている木の股は根の国に通じておる!さあ、行け!」
わたしは何も考える暇はなかった。オオヤビコさまはすごい力でわたしを裏庭に押し出した。
裏庭に出たわたしは、オオヤビコさまの言う通り一本の木の股にもぐりこんだ。
その木の股は深く地の底まで続いていた。
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オオヤビコはイザナミとイザナギが産んだ神の一人で、その名の通り家屋の神とされています。
また、日本書紀に出てくるスサノオの子のイソタケルと同一神だとする見方もあります。日本書紀には
「イソタケルは天から木の種を持ってきて日本の山々に植えたので青々とした木が茂るようになった。今、紀伊国に鎮座されている大神のことである」
と記載されています。
オオヤビコ(イソタケル)は木の国、現在の和歌山の伊太祁曽神社に今も鎮座されています。
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