古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

三度変わる虫

 

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天皇の命を皇后に伝えようと雨の中這いずり回るクチコ。それを見た皇后の侍女でクチコの妹のクチヒメと、家の主人ヌリノミは、そっとクチコを屋敷の中に招き入れた。

 

そしてここで、クチコとクチヒメ、ヌリノミの三人は話し合った。このままでは皇后は意固地になって、天皇とはすれ違うばかりだろう。どうすればこの場をうまくまとめられるだろうか・・

 

そのころ、ヌリノミの屋敷では、彼が母国から持ってきたという珍しい虫が飼われていた。そこで、天皇に遣いを出した。

皇后陛下がヌリノミの屋敷においでになったのは、珍しい虫を見るためです。ヌリノミが飼っているその虫は、一度は這う虫になり、一度は繭になり、一度は空を飛ぶ蛾になるのです。皇后陛下はその虫を見ようとしてヌリノミの家に入ったのであり、他意はございません」と

 

天皇

「ほう、そんな珍しいものならぜひ見てみよう」

と言って、自らヌリノミの屋敷に出向いていった。

 

さて、天皇がちょうどヌリノミの屋敷に到着しようとする頃合いを見計らって、ヌリノミは皇后をその虫が飼われている小屋に案内した。皇后は興味が湧き、ヌリノミがその虫について説明するのを熱心に聞いていた。

 

そこに、天皇が入ってきた。

 

皇后は、天皇を見ると

「あ、陛下・・・いまヌリノミ殿から、この虫について話を聞きましたわ。この虫、眉を作って、その繭からは柔らかな糸が取れて、その糸で織った布は滑らかで光沢があってとても美しいそうです。

如何でしょう、陛下、この虫を民に育てさせては・・きっと民も潤い、生活も豊かになるでしょう」

と言った。

 

嫉妬に狂う皇后も、民を思う心は聖帝(ひじりのみかど)と言われた天皇と同じだった。

 

天皇

「お前が騒ぐからここまで来たが・・そういうことか。お前のその心、うれしく思う。これからも国のため、わたしの良き后であってくれ」

と、皇后に語り掛けたという。

 

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☆養蚕

 

大陸では約5000年前から蚕が家畜化され絹織物がつくられていました。

日本では弥生時代にはすでに養蚕が行われており、この時代に天皇が蚕を知らなかったとは考えにくいです。

また、カイコガの成虫は実際には空を飛ぶことはできません。

 

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