皇太子ウヂノワキを暗殺するため、渡し舟に乗ったオオヤマモリ。船頭は何も言わず、船を漕ぎ出した。
秋の心地よい日差しの中、渡し舟は進む。
川の真ん中に来たとき、オオヤマモリは船頭に語りかけた
「おい、船頭!この山には大きなイノシシがいると聞く。俺はそのイノシシを仕留めようと思うんだが、できると思うか?」
船頭は顔を伏せたまま答えた
「それは・・・無理だと思います・・」
オオヤマモリはむっとして聞き返す
「それはなぜだ?:」
船頭は
「それは、こういうことでございます!」
と言ったかと思うと、突然舟を傾けた。オオヤマモリはつるっと滑って川の中に転落した。
皮の中に落ちたオオヤマモリは、浮き上がろうと必死でもがく。しかし服の下に思い鎧をつけているのだ。思うように体が動かない。
船頭は慌てたそぶりも見せず、黙って川の中のオオヤマモリを見ている。
オオヤマモリはたまらず叫ぶ
「おい、船頭!何を見ている!早く助けろ!」
船頭は冷たい目でもがくオオヤマモリを見て言った。
「兄上、まだわたくしが分かりませんか?」
「なに・・・あっ!おまえ、ウヂノワキ!!」
オオヤマモリはここで船頭の正体に気づいた。そう、船頭は皇太子ウヂノワキの変装だったのだ!
船底には足を滑らしやすいよう、油性の植物の汁が塗ってあった。
オオヤマモリはもがきながら、宇治川の速い流れに流されていく。そこに草むらに隠れていたウヂノワキ配下の兵士が一斉に矢を射て、とどめを刺してしまった。
後にオオヤマモリの遺体を捜索した時、金棒がオオヤマモリの鎧に当たって「かわら」となった。後世、その地を詞和羅崎前(かわらさき)というようになった。
オオヤマモリの遺体は、那良山(ならやま)に葬った。
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古事記上巻 日本神話 目次
古事記中巻 神武天皇~応神天皇 目次
☆詞和羅前
宇治川下流のいずれかと思われますが、調べてもわかりませんでした。京都府京田辺市河原ともいわれますが、地理的に「?」だし・・
☆那良山
反逆者なのにきちんと墓の記述まであります。奈良県奈良市の那羅山墓とされています。