古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

天皇、また后を迎える

 

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ある日、天皇は山城の国に巡行に出ていた。そして木幡村に来たときのことだった。

 

そこにとても美しい少女が歩いていた。天皇はその少女を見るなり、ぜひ自分の后にしたいと思った。

 

思えば、息子のオオサザキに迎えに行くよう命じたカミナガヒメは、願いかなわず息子の嫁になってしまった。

今度は他の男には渡したくない。人は介さず、自ら馬を降り、少女に近寄っていった。

 

天皇は少女に「そなたは誰の子か」と尋ねた。

 

いきなりのことに、少女は戸惑った。しかし、その男の雰囲気、服格好、周りを取り巻く大勢の従者・・その男が高貴な身分であることは分かった。

 

少女は「わたしは丸邇(わに)の娘、ヤカハヒメと申します」と答える。

天皇は「そなたを迎え入れたい。わたしは明日、帰り道にここを通る予定だ。その時、丸邇の屋敷に立ち寄るから、待っていてくれ」と言い残し、巡行に戻っていった。

 

ヤカハヒメと名乗ったその少女は、不思議な気持ちで家に帰ると、父親のヒフレノオホミにその出来事をありのまま打ち明けた。

すると父は

 

「お前、それは天皇陛下だぞ!これは恐れ多い!ぜひ、陛下にお仕えするがよい」と言った。

 

さて翌日。天皇は言葉通り、丸邇の屋敷を訪れた。ヒフレノオホミは家中きれいに飾り立てて天皇が来るのを待っていた。そしてヤカハヒメに接待させた。

 

天皇はヤカハヒメから酒が入った杯を受け取ると

 

「わたしは昔、角賀(つぬが)まで行ったが、そこの蟹は横にしか歩けず、なかなか難渋していたな・・・

しかし私はまっすぐ前を向き、木幡の地でそなたと出会うことができた。こんなうれしいことは無い」

 

そう言って酒を飲むと、ヤカハヒメの肩をそっと抱いた。

 

こうしてヤカハヒメを后として迎え、御子が産まれた。ウヂノワキと命名され、天皇は愛情を注いで御子ウヂノワキを育てていった。

 

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 ☆丸邇(和邇

 

第5代孝昭天皇の子アメタラシヒコクニオシトを始祖とし、大和地方で勢力を持っていた豪族です。和邇下神社はもとは和邇氏の氏神を祀っていたそうです。

 

和邇下神社(天理市) wikipedia
和邇下神社(大和郡山市) wikipedia

 

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