建内宿祢(たけうちのすくね)は、突然訪ねてきたオオサザキとカミナガヒメを見て言った。
「おや、オオサザキ様、どうなさいました?それにそちらの娘さんは?」
「いや、タケウチ!実はそのことで、お願いがあるんだ・・」
オオサザキは一旦カミナガヒメを別室に下がらせると、胸の内をとくとくと建内宿祢に話す。
建内宿祢は、半分呆れ顔で言った。
「・・そういうことでございますか・・蛙の子は蛙と言いますが、オオサザキ様も父君の陛下もようやりますな・・
仕方ありません、ようございます。爺が一肌脱ぎましょう」
「本当か!タケウチ!恩に着るぞ」
オオサザキは喜び半分、しかし不安も半分、建内宿祢がうまく父の天皇の間を取り持ってくれるよう、祈るばかりだった。
建内宿祢はカミナガヒメを連れて天皇がいる宮へ向かって行った。
さて、それから数日後。その日は新嘗祭の日。神事も終わり、宮中では宴会が開かれようとしていた。
その席上、天皇は皆の前で言った。
「今日は皆に紹介したい者がいる。カミナガヒメ、来い!」
すると奥から、侍女に連れられて、着飾ったカミナガヒメが出てきた。その美しさに、その場にいたものは「おお~」と感嘆の声を上げる。
「陛下!おめでとうございます」
皆、祝福の声を上げた。天皇が自分の后を紹介したものと思ったのである。一同、喜びの拍手を送る。
・・一人を除いて・・
そう、オオサザキだ。
・・・ああ、やっぱり、建内宿祢に頼んでも駄目だったか・・仕方が無い、天皇だもんな・・父上、おめでとう・・
オオサザキはむなしい気持ちで、形だけの拍手を送っていた。
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