古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

大和し うるわし

f:id:karibatakurou:20200418104414j:plain

 

杖をつきながらよろよろと峠を越えたヤマトタケル

 

ヤマトタケルは尾津前(おつのさき)まで来ていた。そこに一本の松の木が生えていた。その松の木には見覚えがあった。

 

「おお、あの松は・・往路にあの松の下で食事したっけ・・あの時、木の下に剣を忘れていったが、あの後どうなっただろう・・・」

 

よろよろと松の木に近づくヤマトタケル・・そこで見たのは、忘れていったときのまま、そのままになっていた剣だった。

ああ、もう何年も前のことだ・・・あの時の剣がまだそのままあったとは・・

 

ヤマトタケルは涙を流しながら、松の木に向かってつぶやいた。

「ああ、尾張に向かってまっすぐ立っている一本松よ・・そなたが人であったなら、着物を着せてこの太刀を腰に差させるものを・・・」

 

ヤマトタケルの脳裏に浮かんだのは、尾張のミヤズヒメだったのだろうか・・

 

そこからさらに進むが、いよいよヤマトタケルの足取りはおぼつかなくなっていた。

「ああ、わたしの足は三重にも曲がってしまった・・もう疲れた・・」

とつぶやく。

その地は後世、三重(みえ)と呼ばれるようになった。

 

ヤマトタケルは最後の気力を振り絞って先に進むが、能褒野(のぼの)に至った時、ついに倒れて動けなくなってしまった。

 

ヤマトタケルは涙を流しながらつぶやく。

 

「大和は国のまほろ

  たたなづく青垣

   山こもれる 大和し うるわし

 

・・・ああ、なつかしい我が家のほうから雲が立ち上っている・・・」

 

ヤマトタケル様!しっかりしてくださいまし!」

付き添っていた従者は、必死で呼びかける。しかしヤマトタケルの意識は、もはやそこにはいなかった。

 

「乙女の 床の辺に

  我が置きし つるぎの太刀

   その太刀はや・・」

 

それがヤマトタケルの最期だった。

 

ヤマトタケルはそのまま永遠の旅に旅立っていった。

 

前<<<  たぎたぎしく・・杖をついて - 古事記の話

次>>>  白鳥となって - 古事記の話



古事記上巻 日本神話 目次
古事記中巻 神武天皇~応神天皇 目次

 

 

☆尾津前

 

現在の三重県桑名市多度町、御衣野尾津神社とされています。

 

karibaryokouki.hatenablog.com

 

☆三重

 

足が三重に曲がったから三重、これが県名の由来なんですね。現在の三重県四日市市、旧三重村の辺りと言われています。

 

熱田神宮

 

f:id:karibatakurou:20200429101916j:plain

 

ヤマトタケルの没後、尾張のミヤズヒメは一人で草薙剣を守っていましたが、老いて自分の寿命を悟るに及び、社を建てて剣を納めました。現在の熱田神宮です。

 

karibaryokouki.hatenablog.com

 

 ≪リンク≫
 
カリバ旅行記
温泉の話
駅弁の話
古事記ゆかりの地を訪ねて