杖をつきながらよろよろと峠を越えたヤマトタケル。
ヤマトタケルは尾津前(おつのさき)まで来ていた。そこに一本の松の木が生えていた。その松の木には見覚えがあった。
「おお、あの松は・・往路にあの松の下で食事したっけ・・あの時、木の下に剣を忘れていったが、あの後どうなっただろう・・・」
よろよろと松の木に近づくヤマトタケル・・そこで見たのは、忘れていったときのまま、そのままになっていた剣だった。
ああ、もう何年も前のことだ・・・あの時の剣がまだそのままあったとは・・
ヤマトタケルは涙を流しながら、松の木に向かってつぶやいた。
「ああ、尾張に向かってまっすぐ立っている一本松よ・・そなたが人であったなら、着物を着せてこの太刀を腰に差させるものを・・・」
ヤマトタケルの脳裏に浮かんだのは、尾張のミヤズヒメだったのだろうか・・
そこからさらに進むが、いよいよヤマトタケルの足取りはおぼつかなくなっていた。
「ああ、わたしの足は三重にも曲がってしまった・・もう疲れた・・」
とつぶやく。
その地は後世、三重(みえ)と呼ばれるようになった。
ヤマトタケルは最後の気力を振り絞って先に進むが、能褒野(のぼの)に至った時、ついに倒れて動けなくなってしまった。
ヤマトタケルは涙を流しながらつぶやく。
「大和は国のまほろば
たたなづく青垣
山こもれる 大和し うるわし
・・・ああ、なつかしい我が家のほうから雲が立ち上っている・・・」
「ヤマトタケル様!しっかりしてくださいまし!」
付き添っていた従者は、必死で呼びかける。しかしヤマトタケルの意識は、もはやそこにはいなかった。
「乙女の 床の辺に
我が置きし つるぎの太刀
その太刀はや・・」
それがヤマトタケルの最期だった。
ヤマトタケルはそのまま永遠の旅に旅立っていった。
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古事記上巻 日本神話 目次
古事記中巻 神武天皇~応神天皇 目次
☆尾津前
☆三重
足が三重に曲がったから三重、これが県名の由来なんですね。現在の三重県四日市市、旧三重村の辺りと言われています。
☆熱田神宮
ヤマトタケルの没後、尾張のミヤズヒメは一人で草薙剣を守っていましたが、老いて自分の寿命を悟るに及び、社を建てて剣を納めました。現在の熱田神宮です。
≪リンク≫
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古事記ゆかりの地を訪ねて