陸奥を支配していたのは蝦夷(えみし)の一族である。蝦夷たちはヤマトタケルの威風堂々とした姿に恐れをなした。かつて稚児姿で女装したヤマトタケルだったが、今はひげを蓄えた堂々たる体格になっていた。
蝦夷たちは朝廷に恭順する意思を示し、ここにヤマトタケルの東国平定は終わりを告げた。
「ああ、叔母上・・・ついに日本を平定しましたよ・・・」
ヤマトタケルはこの喜びを、まず叔母のヤマトヒメに伝えたかった。
ヤマトタケルの脳裏に、次々とその道すがら出会った女性たちの顔が浮かぶ。自らいけにえとなり海に消えていったオトタチバナヒメ、
そして尾張で結婚の約束をしたミヤズヒメ・・・あれからもう、何年もたつ。まだ待ってくれているだろうか・・
西の熊襲征伐から帰ってきて、東国平定の旅に出発するまでの、短い大和での滞在期間にも、多くの女性と関係を持ち、中には子ができたものもいた。顔も見ていないわが子、もうかなり大きくなっているだろうな・・・
・・・大和・・・
「父上・・・」
・・・懐かしさからではない、何だろう、この感情は・・・
ヤマトタケルは父の天皇に認めてもらいたくて、勇んで熊襲征伐に赴き、手柄を立てて帰還した。なのになんだろう、あの父上の態度・・
大和に帰りたい。しかし父上はまた・・・
朝廷に自分の居場所はあるのだろうか・・
・・・複雑な思いから流れた涙に違いなかった・・
ヤマトタケルは半分の喜びと、半分の重い気持ちで、大和への帰路についた。
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