相武の国で、朝廷に反逆した国造を誅殺したヤマトタケル。さらに東に進み、三浦半島に来ていた。ヤマトタケルは房総半島を目指し、船に乗って出港しようとしていた。
ヤマトタケルは出港前、海を見て笑って言った。「小さな海だな、この程度なら船など乗らなくても、一跨ぎで渡れそうだな、ははは」
しかしこのヤマトタケルの言葉、海の神はしっかり聞いていたのだ。ヤマトタケルが舟で海に漕ぎ出すと、海峡の真ん中で急に風が強くなり、海が荒れだした。
荒れ狂う海に、船は木の葉のように翻弄される。沈むのも今かと思われた、その時
「私が御子に変わって海に入ります!私がいけにえとなれば、海の神も鎮まることでしょう。
御子はどうか、使命を成し遂げて朝廷に帰還してください」
そう申し出たのは、相武の国でヤマトタケルと出会い、ヤマトタケルを慕ってついてきた、妻のオトタチバナヒメだった。
「なんだと!いかん、やめるんだ!」
ヤマトタケルは叫び、オトタチバナヒメのもとに駆け寄ろうとする。しかし、荒れ狂う海に揺れる船の中では、思うように動きが取れない。
そうこうしている間にオトタチバナヒメは、すげ・皮・絹の敷物を幾重にも重ねて海に浮かべ、その上に降りて座った。
「ああ、相武の野の、火の中でも私の名を読んで下さった天の御子・・・決して忘れません」
「オトタチバナー!」
ヤマトタケルは叫ぶが、その姿はすぐに見えなくなった。と思うとにわかに天候が回復し、元の静かな海に戻っていった。
ヤマトタケルは無事に上総の国にわたることができた。
その7日後、オトタチバナヒメの櫛が海岸に流れ着いた。
ヤマトタケルは櫛を手に取ると、オトタチバナヒメの御陵を造り櫛を納めた。
ヤマトタケルが渡ったその海を、後世の人々は走水の海というようになった。
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☆走水神社
ヤマトタケルが船出した走水の地に建立されています。
☆橘樹神社
ヤマトタケルがオトタチバナヒメの櫛を納めたところで、背後の古墳がオトタチバナヒメの御陵とされています。
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