天皇は、生まれた子もサホビメも一緒に自分のもとに取り戻す魂胆だった。
天皇は兵士の中から力が強く、なおかつ身軽で敏捷な者を集めた。そして彼らに命じた。
「御子を受け取るときに、同時に母親も一緒に連れてこい。髪であろうが手であろうが、とにかくしっかりつかんで、引きずってでもここに連れてこい」
天皇の命を受けて、兵士らはサホビコの屋敷に近づいていった。
そこに、御子を抱いたサホビメが出てきた。
サホビメは兵士に御子を手渡すと
「陛下の御子です。陛下のもとにお届けください。陛下によろしくお伝え願います。」
と言い、兵士が御子を受けとるとくるりと背を向けて屋敷に帰ろうとした。
その時だった。兵士は天皇の命令通り、サホビメを連れ戻そうと、戻ろうとするサホビメの後ろ髪をつかみ、ぐいと引き寄せた。
すると・・・兵士がつかんだ髪は、サホビメの頭からごっそり抜け落ちたのだ。サホビメはそのまま屋敷のほうへ走っていく。
慌てた兵士らは、サホビメを追う。しかし腕を取れば、サホビメの腕に巻いていた玉の紐がぶちぶちと切れ、着物を取れば着物は破けるありさまだった。そうこうしているうちにサホビメは屋敷の中に逃げ込んでしまった。
天皇の目論見は失敗した。
サホビメは、天皇がとってくるであろう行動はすでに見抜いていた。サホビメはあらかじめ自分の髪を切って、その髪でかつらを作って頭にかぶっていた。また玉の紐も、あらかじめ切れ込みを入れて細工しておき、その玉を何重にも腕に巻いておいた。着物も酒につけて腐らせ、すぐちぎれるようにしておいたのである。
やむを得ず、兵士は御子だけを抱くと、天皇のもとに戻っていった。
報告を聞いた天皇は、嘆き憂いた。そしてその怒りは、あろうことか紐をちぎれやすく細工して造った玉作りの職人に向けられた。天皇は玉作りの土地をすべて没収してしまったのである。
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☆地を得ぬ玉作
玉作りの職人たちは、 ただ依頼を受けて細工しただけ、なのに土地を取り上げられてしまいました。職人たちにしてみれば、なんとも理不尽な話・・・
古事記では「このためにことわざで『地(ところ)を得ぬ玉作(たまつくり)』というようになった」と説明してあります。
現在では使いませんが、当時このようなことわざがあったのでしょう。目先の利益に目がくらんで大事なものを失う、と言った感じの意味でしょうか。
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古事記ゆかりの地を訪ねて